彼はすぐにハンドルに手を戻すと、続けた。

「そういうのが、好きってことじゃん?たぶん」
「…なんか」
「んー?」
「なんか…なんで、言えるんですか?そういうの、さらっと」
「いや、だいぶ頑張ってるけどね、これでも。でも、だいぶ緊張は解けてきたかな」
「…最初と、全然違う」
「そうかな。でも、全部俺だしね。カッコつけてても、カッコ悪くても。本当は最初にカッコつけて、だんだんカッコ悪い部分が知られてくんだろうけど、彩乃ちゃんの場合は最初がめちゃめちゃカッコ悪かったからさ。ここからはいっぱいカッコつけてこうかなって」


この、たった二週間弱という短い期間の中で、いろんな顔を見せてくれた彼。
あたしはその彼に、まだきっと、ほんの一部分しか見せていないのに、そのあたしを彼は好きだと言う。

彼が言うとおり、『好き』に理由は必要ないのかもしれない。
だって、あたしも、海やイチゴミルクが好きな理由なんてわからない。
でも、あたしは彼が好き?


本当は、気付いていた。

あのコンビニの前を通り過ぎるときに、いつも彼を思い出していること。
あのとき買ってもらったロイヤルミルクティーを見ながら、白い煙を吐き出す彼の横顔を思い出していること。
足の怪我が治っていくのを感じながら、なんとなく、どこか寂しいような気持ちでカットバンを剥がしていること。
毎日、携帯の画面を見つめては、彼が鳴らしてくれるのを期待していること。

本当はずっと、気付いていた。

その全部が、あたしが彼を好きだと認めることで説明がつく感情だということ。
とっくに、わかっていた。

あたしがそれを言葉にするだけで、全てはまるく収まる。
それも十分わかっていた。

「…ありがとう、ございます。そんなふうに想ってくれて。嬉しいです、すごく」