ヤバイなぁ。

あたしはまた、自分が発した言葉に自分で傷ついている。

あたしは、彼女じゃない。

だからべつに、こんなちっぽけな出来事で不機嫌になる理由もない。
筈なんだけどな。
そもそも仮に彼女だからって、怒るほどの出来事でもない。
彼のほうから声をかけたわけでもないのに。
あたし、こんなに心が狭かったんだっけ。


「ねぇ」

重苦しい車内の沈黙を破ったのは彼のほうだった。

「さっきの続きだけど、車も、ブルーハワイも、彩乃ちゃんも好きだけど、そんで理由はやっぱわかんないけど、でも一個言えるのはさ」

あたしは、流れる景色を眺めながら彼の声に耳を傾ける。

「わかんないけど、それがいいんだよね。っていうか、それじゃなきゃダメっていうか。嫌なことあったときとか、1番スカッとするのが俺には運転だし、かき氷食うならブルーハワイがいいし」

その続きは、読めてしまった。
そしてあたしは、それを言うときの彼の顔を、見たいと思った。

運転席に目を向けると、彼はにっこり笑った。

「やっとこっち見た」


すると彼は、左手をハンドルから離すと、その手であたしの頭に軽くぽん、と触れた。


「彩乃ちゃんがいいよ、俺。助手席に乗せんのも、一緒に海に行くのも、かき氷食うのもさ」