車に乗ると、彼はカーステの操作をして、来た時とは違う曲を流した。
これならあたしもよく知ってる。

「なんで、サザン?」
「江ノ島だから」
「…ベタですね」
「ダサいとか思った?」
「ううん。好きです、サザン」
「なんでサザン好きなの?」
「…なんでだろ。曲とか、いいし?」
「そんなもんでしょ。明確な理由なんかないんだよ、『好き』って感情は」
「車が好きなのと、ブルーハワイが好きなのと、あたしが好きなのと、全部同じですか?」
「根本的には一緒じゃん?」


そう言って彼はシートベルトを締めようとしたけど、ふと窓の外の自販機を指して「飲み物買って来るね」と言って出て行った。

指先で前髪を整えると、それだけでも潮風に晒された毛先がきしんでいるのが僅かな感触の違いで感じられた。
マキシワンピに合わせて、後ろはおだんごにまとめて来て正解だったと思う。

自販機で飲み物を選んでいる彼の後ろ姿に目をやると、ちょうど砂浜からあがってきたばかりのギャル2人組が彼に何やら話しかけていた。
窓を閉めているので声まではここには届かないけれど、大体どんなやりとりがされているのかは想像がついた。