イチゴ水の中に、彼が灰を落とすと、ジュッという微かな音がした。
ちょうど夕日が全部海に沈むときだったから、太陽も、冷たい水に沈むとき、こんな音がするのかな、なんてふと思う。

好きってこと以外、なんもない。
と言う彼に、あたしは何が言える?

彼はその先はもう言葉を続けることはなく、ただ黙って煙草を吸っている。
けれどあたしも、何か言わなきゃいけないことくらい、わかっている。


「…どうして」
「ん?」
「どうして、好きだと思うんですか?あたしのことが」
「え?理由なんかないでしょ。つーか、行こうか、そろそろ。暗くなるし」


そう言って彼が立ち上がる。
それに促されるように、あたしも立ち上がり、お尻の砂を払う。
日中のそれより、少し冷たくなった風がマキシワンピの裾を煽る。
自然に差し出された手に掴まるようにして歩くと、やっぱり歩きやすくて、その安定感は心強い。
でも、これは「好き」とは違うと思う。
きっと、男の人の手であれば、いや、もしかしたら女の人であっても、あたしが歩くのを支えてくれさえすれば、あたしは同じように安心できる気がする。