そこで彼が一旦言葉を切ったことに違和感を感じて、運転席に目線を移すと、彼も横目で一瞬あたしを見た。
けれどすぐにまた前方に視線を戻して言葉を続けた。

「…彩乃ちゃんが、それを好きかどうかなんてさ」

そう言うと彼は、窓を少し開けて、煙草に火をつけた。

「だから今日は、それを教えてもらおうと思って。俺は一個教えたでしょ、運転が好きって。次はそっちの番ね」

じっと前方を見据えたまま、いつもよりほんの少し早口で言うのは、たぶん照れ隠しだということが、わかった。
「彩乃ちゃん」って、初めて呼んだあと、横目で見た彼の耳がほんのり赤くなっているのが見えたからだ。

「…海」
「え?」
「海が、好きです。あたし」
「へぇ、意外。なんか違うね、イメージと」
「そうですか?」
「だって、泳いだりっていうか、あんまりアウトドアな印象じゃないけど」
「泳がないけど。見るのが好きです。綺麗だから」
「なんだ。やっぱ泳ぐわけじゃないんだ」


彼はそう言って笑った。
そして、次の信号で停まると、カーナビに江ノ島の文字を入力した。

「やっぱり江ノ島でしょー。海って言っ
たら」
「でも、遠くないです?」
「や、そうでもないっしょ。ちょうど着く頃には夕日見れんじゃない?」
「なんか…いいんですか?」
「え?全然いいよ。好きなんでしょ?行こうよ」