あたしは急に、全身の力が抜けるような感覚を覚えて、思わず笑ってしまう。


「ふふ。なんですか、それ」
「え、なに?なんで?」
「…なんでもないです」
「えー?なにそれ、俺なんか変なこと言った?」
「ううん。そうじゃなくて。でも、緊張して損したなあって思っただけです」
「緊張してたの?」
「そりゃあ、だって…それなりには。一応、デート…だし」

デート、という単語が照れ臭くて、少し声が小さくなる。

「デートって思ってくれてんだ?」
「…まぁ。一応、思ってますよ」
「一応、は余計でしょ。俺だって緊張してるよ。初デート!」
「そうは見えないですけど。なんか、こ
んな…行き当たりばったりな感じだし」
「あー…まぁ、それはね。嫌だった?」


赤信号で停まると同時に、彼があたしの顔を見た。

「え?…嫌じゃないですよ、別に。ただ、なんていうか…歳上の人と遊んだりとかしたことないから。なんか、いろいろ
エスコートっていうか、そういうの想像してたけど、違ったから」

信号が青に変わり、また走り出す。


「俺さぁ、好きなんだよね。車。っていうか、運転っていうか」
「?…はい」
「本当は、考えてたよ。色々。だって誘ったの俺だし。ちゃんと計画練って行っ
た方がいいんだろうなって思ったし。でもさぁ、わかんないじゃん、結局。女の
子が喜びそうなこととか、好きそうなこととかさ。なんとなく知ってるつもりで、それをやってあげたところで、君が」