「車で来るなんて、思わなかったです」
「あ、ごめん。苦手だったりする?乗り物酔いするとか?」
「…そうじゃないですけど。ちょっとびっくり」
「なら、良かった。びっくりさせたかったんだもん、だって」

話しながら彼は、カーステのボリュームを落とした。
どこかで聴いたことがある気がする、でも曲名もグループ名も知らない洋楽。

「なんかあるー?聴きたいやつ」
「あ…っと、なんでも…」
「そ?んじゃ、このままでいい?」
「はい」

音楽にはそんなに詳しくない。
そもそも、あたしの知ってる曲が彼の車のステレオには入ってないかもしれない。

彼は、続けて訊く。

「どっかあるー?行きたいとこ」
「え?」
「なんかリクエスト。ない?車だし、どこでも行けるよ。天気もいいしね」
「…決めて、ないんですか?行き先」
「うん、特に。だから、どこでも言ってみて。あ、とりあえず腹減ってない?」
「…それなりに」
「じゃ、飯食いながら考えよ。どこ行くか」
「ご飯…は、決まってるんですか?お店とか」
「いや?今の俺の気分は、肉だね。それしか決まってない」