「もしもし」
「あ、着いた?」
「はい。ハチ公…東急の前のとこに、もういます」
「あ、ほんと?あー、じゃあさ、悪いんだけどこっち来れる?交差点のほう。交番のあたりにいるから」
「わかりました」

通話をしながら、あたしはすでに歩き出していた。
本当に、これから始まるんだ。


あたしと、彼の、「デート」。

そんな当たり前のことを思うと、ふわっと心臓が浮くような心地がして、足取り
もなんだか軽くなる。

交番の前にちょうど辿り着いて、歩きながらあたりを見回していると、再び携帯が鳴った。
今度はすぐに出る。

「はい」
「着いたよね?こっち。前、見て」

前?


目線を上げると、前方の道路からのクラクション。

「わかった?」


と、彼が耳元で言うのと、あたしがそこに辿り着いたタイミングはほぼ同時だった。
瞬間、助手席のドアが内側から押し開けられる。

「ごめんね、お待たせ。早く乗って。ここ、あんま停まってらんないから」


言われるがまま、助手席に座る。
車はすぐに走り出した。