日曜昼間の渋谷駅ハチ公前は、人でごった返している。
みんな、ここがハチ公だと知っているから来られるけど、初めてここで待ち合わせをする人はまず目印のハチ公を見つけられないと思う。

ぐるっとあたりを少し歩いてみたけど、彼は見当たらない。
もしかしたら、と思って喫煙所を覗きこんでみたけど、やっぱりいない。
まだ来てないみたい。

ハチ公前は人が多すぎるので、あたしは東急前で待つことにした。

まだ、約束の時間までは10分ある。
待ち合わせに早く着くのは、ちょっと苦手だ。
どこから来るのかわからない相手を探してついキョロキョロしてしまうのがちょっと恥ずかしいし、ただ立ってるだけの手持ち無沙汰な感じが嫌。
するべきことのない手で、ポケットの中のiPodのダイヤルを器用に回して、ボリュームを下げた。
もしもあたしがよそ見をしているときに、彼がやってきて声をかけてきたら、すぐに気付けるように。
音楽が消していた渋谷の街の喧騒が、途端に耳に入り込んで来る。

スクランブル交差点の向こう側に見える大型ビジョンを何気なく眺めていると、携帯がバッグの中で震えた。