「…友達、って感じじゃなかったよ」
陽菜は少し迷うように、目線を下にずらしながら、でもはっきり言った。
「どうして?」
「…女の人、たぶん、泣いてたと思う。そんな近くで見てないからわかんないけど、たぶんそんな雰囲気だった。で、抱きつくみたいに、拓真くんの腕、掴んでた」
「……どんな、女の人?」
「女の人は後ろ姿しか見えなかったから、わかんない。けど、たぶんうちらより少し上くらいかも。服装がね」
「……………」
たとえば、女友達。
失恋して泣いてる仲良しの女友達。
…かも、しれないし。
それか、もしくは、元カノ。
拓真は優しい。
元カノが、泣くようなつらい想いをしていて、会いたいとか言われたらきっと会う。
「…彩乃?」
「あ、ごめん」
「ううん。あたしこそ、ごめんね。黙ってて」
あたしは昨日、バイトをしていた。
その後、拓真の部屋へ行った。
特に変わった様子なんて、何もなかった。
あたしはそんな気をつけて見てはいなかったから、見抜けなかっただけなのだろうか。