ショコラはなおも名残惜しそうに、ミナミの足元を離れようとしない。
くぅん、と寂しげに鼻を鳴らすショコラを見て、ミナミは言った。

「ごめんね、ショコラ。連れてってあげられなくて…」

あれほど、犬が大好きだから、結婚したらたくさん犬を飼うのが夢だなんて豪語していたくせに、犬嫌いの旦那と結婚したミナミはショコラを抱きしめる。

「今日が、最後だよ」

俺は言った。

「ショコラのことは、今の彼女も気に入って、可愛がってくれてる。ミナミが心配することは、何もないから」
「………そんなに、大事なのね。今の彼女のこと」
「は?」
「仕方ないか。最初に拓真をいらなくなったのは、あたしだもんね。勝手なこと言ってるのはわかってた」

ミナミは俯き、じっと自分の左手の薬指を見つめた。

「…外さなきゃ、よかったな。拓真がくれた、お揃いのー」
「…何、言ってんだよ、お前」
「あのとき、拓真と別れないでいたら、今頃きっと…」
「やめろって!」