「待って、ってば…」

服の上から、あたしの左胸を鷲掴みにする彼の手首を押さえて、あたしはお願いするような気持ちで言う。

「…いや?」
「…じゃ、なくて…」
「なら、待たない」
「電気…電気、消して…?」

彼は一瞬考えるように目線を泳がせると、ベッドのヘッドボードの上からリモコンを取った。

「これでいい?」

それを操作して、照明を豆電球のオレンジの灯りにすると彼は訊いた。

「…もっと、暗くして」
「嫌だ。そしたら真っ暗だもん」
「…いい。それでいい」
「…ダメ。もったいないから」

そう言った彼の顔には、さっきの少年のような頼りなさはもうひとひらも残っていない。

「顔も、見えなくなるよ?それでもいいの?」

逆に質問をし返してくる彼は、意地悪そうに笑う。
あ、また、見たことない顔。

「それは、やだ…」

あたしが答えると同時に、唇がまた塞がれて、今度はTシャツの裾から彼の手が入ってくる。
ゆっくりと、でも確実に、彼はあたしのTシャツをたくし上げて、ブラジャーが丸見えになる。

顔が、熱い。
けど、それと同じくらい、身体も熱くなっていることをあたしは感じていた。

彼は上手にあたしのTシャツを頭からすっぽりと抜いて、背中のホックに手をかける。


あたしはそれを避けていながら、同時に期待もしていたのだった。
いつかこうなることを予測していた。

だから、彼に会う日はいつも、ムダ毛の処理も完璧で、普段よりたっぷりめにボディクリームを塗って、下着だって気をつけていた。
だからなにも、焦る必要なんてない筈なのだけど、この期に及んでまだあたしの脳裏に時々掠める不安。