「桜、お願い!この前先生にもらってた赤ペンちょーだい!」
泣きそうになった。
もうこれ以上、私から大切なものを奪わないで……。
そんな心の叫びが愛梨に届くはずもなく、私は彼女の頼みを聞き入れた。
ずっと触らずに、大切にしまっていた赤ペン。
もう先生の温もりは跡形もなく消えてしまったけれど、私の中ではちゃんと残ってた。
私の宝物が1つ減った。
「解けた奴から丸付けしろよ~!」
その日の数学の授業。
先生のその言葉で、赤ペンがないことに気付く。
いつも使っている予備の赤ペンを、どうやら忘れてきてしまったらしい。
隣の席の子に赤ペンを借りようとした、そのとき。
「桜、赤ペンないのか?俺のやるよ!」
先生が私に赤ペンを差し出した。
のどから手が出るほど欲しかった。
「い、いいよ!私、友達に借りるから!」
「遠慮すんなって!いいから早く丸付けろ!」
「……はい……」
愛梨を見るのが怖くて、視線を赤ペンに向ける。
先生のペンには“ジョウジマ”と名前が書いてあった。
そのペンに愛着を感じつつ、諦めも感じていた。
愛梨、きっとこのペン欲しいんだろうな……。
授業後、私はそのペンも愛梨にあげた。