先生を好きだと気付いてから、先生を変に意識してしまって、うまく先生と話すことができなくなってしまっていた。
奥さんと子供がいるという事実も、引きずってしまっていた。
会ったこともないのに、先生が奥さんや子供に笑いかけてる様子が自然に浮かぶんだ。
会いたいとか、話したいとか、そういう思いは募るばかりなのに、そんな思いとは裏腹に、なぜか先生を避けてしまっていた。
それを傍で見ていたくるみは、ある日の昼休みに私を連れ出した。
私の手を強く引き、階段を駆け下りるくるみ。
「ちょっとくるみってば!どこ行くの!?」
「このままじゃ、他の子が先生の特別な生徒になっちゃうよ!もっと素直になりなよ!」
くるみが急に立ち止まり、私の背中を押した。
真っ直ぐ伸びる廊下の先には、先生がいた。
今日は珍しく、真っ赤な赤いシャージ。
先生は、授業で使う大きなコンパスを軽々と肩に担いで、不思議そうな顔でこちらを見ている。
先生……寝癖、ついてるよ。
ピョンってかわいく立ってるの、気付いてる?
「桜、どした?」
人通りの少ない、2人きりの廊下。
この世に私と先生しかいない、そんな気さえした。
窓からの心地よい風と共に、私の足元に桜の花びらが舞い落ちた。