「さっきの…誰?」


声で分かる。


何年か前の夏祭りに、聞いた声。

離れなかったあの笑顔。


「今の、俺の彼女。結婚すんだよ、もうすぐ。」

「お願い、大翔。戻ってきて…。隼人と、空、彩だってまだ小さいのに…。」


先生を『大翔』と呼ぶその人は、3人の子供の名前を必死で叫ぶその人は…


紛れもなく、先生と別れた奥さんだった。


「お前が俺を見捨てたんだろ!?なぁ?俺は今だって、隼人も空も彩も愛してるよ。忘れらんねぇ。母子家庭で寂しい思いなんか、させたくねぇよ。でも、もう無理だ。すっげー好きな奴がいるんだ。もうそいつ以外愛せないし、戻る気もない。ごめん。」


私は、黙ってその会話を聞いていた。

大きな声で怒鳴った先生が、『まだ子供を愛している』と言った。


私、知ってるんだ。

お父さんがいない寂しさを。

それで、どれだけお母さんが苦労したのかを…。