とある温泉街に住んでいる私、菜子。

いま目の前に、好きな人を発見してしまい、胸が高鳴る

こじんまりとした田舎の駅のホームの椅子に、彼は座っていた

後ろ姿でわかってしまう私って、相当彼が好きみたい

もっと、おしゃれな格好すればよかったななんて思いながら

私は、彼のもとへと向かう

少し高い私のヒール靴。

カツカツ音を立てながら、一歩一歩確実に彼に近づいていく

近づくにつれて恥ずかしくなって、ついホームへとつながっている階段を下り終わると俯いてしまった

でも、一歩ずつ近づく靴の音は私にはとてもうるさくて

ふと顔を上げると、彼はこっちを向いて私を見つめていた

ビックリして足が止まってしまう

それを見て彼は私だと認識したのか、手に持っていた雑誌らしき本を閉じ、こちらに軽く手を振ってくれた

私は微笑み、彼に近づく。

あと、5メートル

4メートル

3メートル

2メートル

1メートル。


「やっぱり、なーちゃんか。偶然偶然」

「そうだね~。でも私は、てっきり昇くんは遊ちゃんと一緒かと」

「あー。遊は、いとこのお姉さんと遊び行った」

「うん。だからてっきり昇くんも一緒にと」

「俺あんまその人好きくないから、話すとき気を使うのがめんどいし、断った」

「ふーん。なるほどね」

「なーちゃんは?DVD借りたの??」

「あー、うん。そうだ!あの4見っけたから借りてきたよ」

「まじか。にしても感動だよな、あれは。泣けた」

「わかる、わかる。あたしも号泣だったし」


電車が来るまで、あと5分