「前に電話してきたことあったろ?その時に綾菜の名前を呼ぶ男の声がしたから……」
綾菜はコクンと頷いた。
「だから蒼太が邪魔になって、俺のマンションの部屋の前に置いて行ったのか?」
「ちがうっ!」
綾菜は目を見開いて少し大きな声を出して否定した。
「でも、お前、最初に電話した時に……」
蒼太がいたら自由になれないって……。
「違う、違うの!」
綾菜は首を左右に激しく振った。
「本当に違うの……」
「俺な、蒼太のリュックの中に入ってる母子手帳や荷物に入ってた手紙を見て、綾菜が蒼太を邪魔に思って俺のところに置いたなんて信じられないんだよ」
綾菜の目から大粒の涙がポタポタこぼれ落ちていく。
「なぁ、綾菜?本当は蒼太のこと、愛しく思ってるんだろ?本当は手放したくなかったんだろ?俺に電話してきたのも、さっき保育園の門のところにいたのも蒼太が気になってたからだろ?」
声を殺して泣く綾菜。
「何があった?」
なぁ、綾菜。
俺に本当のことを教えてくれ。