「希凛ー。おーい。希凛ってば」

「っへ?」

「ボーッとしすぎじゃん。」

彩が飴玉を私に差し出しながら不思議そうに私を見つめた。

「レモン味。好きでしょ?てか、今ボーッとしてたらヨコちゃんに怒られるよ」

「あぁ…ごめん」

ヨコちゃんとは古典の先生の横山陽子のこと。
横山のヨコヤマとヨウコがにてるから何故かヨコちゃんっていうあだ名に。

厳しい先生ナンバーワンだ。


「…ねむ」
古典の教科書に視線を落としながら静かにレモン味の飴玉を口に放り込んだ。
…実は戸部山くんと電車に乗ったあと。

私はなんにも話すことはできなかった。
けれど、戸部山くんが降りる駅に電車が停車したとき、戸部山くんは私に手を差し出したんだ。

なにがなんだかわかんなくて。
とりあえず私も手を差し出したらぎゅっと握られた。
それで、「よろしく」ってそう一言言って電車から降りていったのだ。

…もちろん私は恥ずかしさで顔が噴火するかと思った。
ああ、思い出しただけで…。

熱い顔を俯かせるとバンっと黒板を勢いよく叩く音が響いた。

「…高野瀬さん。ここの答えは?」

「…え?」

「宿題のプリント。まる2番。」