Diva~見失った瞬間から~


「――――…。」

それからは、約2時間は

グラウンドから目が離せなかった。


試合が始まった瞬間にそのグラウンドを

纏う空気は張り詰めて。

ゴールが決まっては歓声に包まれて。

ボールが再び中心に戻ると、

また空気は張り詰める。


グラウンドの中で起きることは、

明らかに

その周囲の人の表情を変えていった。


ボールを操っているのは人であり、

人が何かをすることで、

人の表情を変えていく。

それは、

"あのこと"と重なるモノが有って。


私があそこに立ったら、

きっと錯覚する。

"あの瞬間"を思い出して。

"あの瞬間"に、

戻って来たのではないか、と。

きっと……錯覚してしまう。






表情を変えられるのは、

私も例外ではなくて。

葉月君の驚く程の上手さに

私の目は奪われた。


ボールが、葉月君に付いていってる…

そう私には見える程のテクニックに。


「…………格好いい…。」

顔とかじゃなくて。

ただ、

純粋にボールを操っている葉月君が

格好いいと、思った。


《ピーーーーーッ!!》

試合終了の笛が鳴り響く。

私はその音でハッと

現実に引き戻される。


結果は、葉月君達の高校の勝利。

チームの皆はとてもキラキラしていた。

皆、笑顔で。輝いて見えた。


私とは…正反対に思えた。






「蒼空君っ!お疲れ様ー!」

私の横に居た時鶴は、

試合に勝ち、着替えを終えた蒼空君達に

駆け寄って行った。


……蒼空君のチームメイトも居るのに…

よくあんなにベタベタ出来るな(。-∀-)。


決して尊敬の念とかは抱かないけど、

仲が良い2人を

見てるのは嫌いじゃない。

寧ろ、時鶴が幸せって実感出来て

私はこの光景は意外に好きかも。


「蒼空君、格好良かったよ!」


「ありがとう。」

……ベタ甘な雰囲気はマジ勘弁だけど。


…てゆうか、時鶴。周りを見渡そうか。

1回で良いから見渡そうか。めっちゃ

女子の視線が痛いんだけど…(ーー;)。


なにが「中々近付けないの…。」だか。

普通に近付いて…

それ余暇イチャついてるじゃんか。


「………はぁ。」

こうやって無駄に時鶴に

嫉妬する女子が増えるんだろうなぁ。


蒼空君が時鶴から

離れる心配は全く無いけど、

卑怯な女子が時鶴に

危害を加えるんだよね。

……まぁ、

そんなのからは私が守るけど。


でも、

時鶴には少し自覚して欲しいかなぁ。

自分にはとても魅力が有って、

それは時に嫉妬の対象になるってこと。

あと…

自分は蒼空君に愛されてるってこと。


「………鈍感…。」

蒼空君の隣で笑っている時鶴に、

ポソッと私は呟いたのだった。






「誰が?」


「………………。

…………………わぁっΣ( ̄□ ̄;)!?!?」


「うわっ。」

ななななな…何っ!?

私はバッと声のした方に視線を向けた。


「は、葉月君…?」

そう、そこに居たのは葉月君だった。


「え、あぁ。俺だけど。」

いや、分かるけど。

何で、てゆうかいつの間に私の後ろに!?


「カナ、この後空いてるんだろ?」


「え…?あ、うん。」

そうだった。

この後葉月君とどっかに行くんだっけ。


「じゃ、行こ。」

さっき同様、ふわり。

と葉月君は微笑む。

う……(ーー;)。何かその顔弱いかも…。

顔が極上なだけに、極上の微笑みだし。


因みにシカトこいてますけど、

周囲の女子の視線は半端ない。

…怖ー…(←それ程でもない)。


「カナ?行くって。」

一向に返事をしない私に

葉月君はもう1度呼び掛ける。


「あ、うん。行く。」

私と葉月君は歩き出す。


…時鶴から散々変な視線を浴びたけど。






…………で、今街中を歩いてます。


「…………( ̄△ ̄;)。」


「ん、カナ?どうした?」


「え…別に何も。」

あぁぁあ…葉月君…(-_-;)。

気付こうよ、周りの視線が痛いよ。


駄目だ…隣にこんな美形が歩いてると

私も視線を浴びる浴びる…あぁ(T^T)。


「カナさー…。」


「え、うん。」

急に葉月君が話し掛けてきて少し驚く。

だって、

葉月君って基本無口なイメージだし。


「蒼空のこと好きなのか?」


「……………。」

は(゜д゜)?


「好き…って、どう言う意味で?」

人間として?友達として?


「男として、だけど?」


「……え、

恋愛感情は持ったことないよ。」

とゆうか、時鶴の彼氏だし。

それ以前に、

あんな爽やかイケメンと私が

釣り合いを取れるワケがない。


蒼空君の"彼女"とゆうのは、

私に言わせると時鶴以外に

ピッタリと当てはまる人は

居ないと思う。

それくらい、

あの2人はお似合いだと思う。


それより、何でそんな質問?


「へー…。じゃ、

さっき誰に対して鈍感って言った?」


「………鈍感?」

………………………………言ったっけ。

……あ、うん。言ったかも。

誰に対して、と言われると…それは。


「時鶴。」

うん、時鶴だった。






「牧原に?」


「う、うん。

時鶴って…学校では毎日と言って良い程

男の子から告白されてるんだよね。」


「へぇ。」

何かあんまり興味無さげ…(; ̄ー ̄A。


「でも、当の本人は自分が何で

告白されるのか分かってないし、

何より蒼空君に絶賛溺愛中だから。

全然周りの視線を気にしないの。」

………何故私は時鶴の話を葉月君に?


今さらだけど違和感感じまくりだな。


「当然告白は断るでしょう?

そうすると今度は

周りの女子からの視線が痛くて。

時鶴、

女の子の友達あんまり居ないの。」

あんなに良い子なのに。


女子って、あんまり好きになれない。

勝手に意味不明の噂を流したり、

勝手にその噂を信じて広めて、

嫉妬して。

自分勝手極まりないんだよ、全く。


「……じゃあカナは、

何で牧原の側に居るんだよ?」


「へ?」


「牧原の側に居ても、

カナに良い事なんて無いだろ?

何でカナはそれでも

牧原の側に居るんだよ?」

意味、分かんない。






「……。私は、人と関わることで

利益を得ようとは思わない。

時鶴と居ると楽しいよ。飽きないよ。

でも私はそれを利益とは考えない。

私は時鶴が好きで、大切だから。

だから、側に居るの。

側に居て、守るの。」

柄にも無く熱くなってしまった。


言い終わってハッとした。

………言い方が失礼だったかな。

人にはそれぞれの価値観が有るし。

別に自分の価値観を

押し付けたい訳でもない。


でも、分かって欲しかった。

私は時鶴が好きで

側に居ると言うことを。

葉月君…蒼空君の友達だし。

私の……友達…でもあるし。


「………。」


私の言い様に引いたのか、

葉月君は無言…とゆうか沈黙だ。


謝ろうか…と、考え始めた時だった。


「…やっぱ、カナは大丈夫そうだ。」

彼は、またその美しい顔に

妖艶な微笑みを浮かべて、

私を見てきたのだ。


《ポフッ…》


「格好いいじゃん。」

そしてまた、頭を撫でられた。






「………。」

思わず見惚れてしまう。


「…ん?あぁ、頭イヤか?悪い。」

さっき同様、呆然としていたら、

葉月君は私の頭から手を離した。


「……え、イヤ。別にイヤな訳じゃ…。」

って、何で焦ってんだろ、私。


「お。」


「えっ。」

突然葉月君が立ち止まるものだから、

私も反射的に立ち止まった。


「着いた。」

目的地に、着いたらしい。


「…………?ここって…。」

私は、驚きを隠せなかった。


「ん?あぁ、仕事場?」

…………スタジオだったから。






「じゃあ、行こ。」


「………ま、待ってよ、葉月君。

こういう所って、

関係者以外入れないでしょう?」

何普通に私を入れようとしてるの。


「ん?平気。

カナは関係者の関係者だから。」

何だその友達の友達と似たノリ…!


「行こ。」


「えぇっ…。」

手首を葉月君に掴まれ、

連行される感じ。

どうにも出来ない状況。


駄目なんだってば。

ココは……

私が来ちゃ駄目なんだよ…っ。


私の腕を引く葉月君が、

またもや"彼女"の面影に重なる。


『カナ!今日は何だっけ?』

いつかの懐かしい幻覚が現れる。

懐かしすぎて、涙が出そうになる。


「……っ。」

葉月君は、

後ろで泣きそうな顔をしている

私に気が付くワケもなく、

颯爽とそのスタジオに私を連れ込んだ。