はずかしいよぉ…。
でもここでおわっちゃダメ!
おかあさんからもらったチョコも
かえでくんにちゃんとあげなきゃ!
「それで、あの…。
きょ、きょう"ばれんたいんでー"だから、
か、かえでくんに……
チョコもらってほしいの!」
わたしがチョコをまえにもってくると、
ガサッておとがした。
「"ばれんたいんでー"?」
かえでくんは、
ちょっとおどろいてるみたい。
「あのね、
おんなのこがすきなおとこのこに
チョコをあげるひなんだって!」
「かのん、ぼくのことすきなの?」
「うん!」
かえでくんはカッコいいもん。
やさしいし、あたまなでてくれるの。
「わたし、かえでくんがだいすき!」
わたしがまただいすきっていうと、
かえでくんは
わたしのほうにあるいてきた。
それで、わたしのてににぎってる
チョコのふくろをやさしくとったの。
「ありがとう、かのん。
ぼくもかのんがだいすきだよ。」
かえでくんがそういったあと、
かえでくんのかおが
どんどんちかづいてきた。
そして、「チュッ。」ておとがして、
ほっぺたにふわってなにかあたったの。
「ねぇ、かのん。
ぼくがすきってことはさ、
ぼくのおよめさんになってくれるの?」
お、およめさん?
「け、けっこん?」
のこと、だよね?
「そう。ぼくとけっこんしてくれるの?」
「…………する!」
「じゃあ、
かのんはぼくのおよめさんだね。」
かえでくんは、ニッコリわらった。
う、うれしいよぉ!
わたし、かえでくんのおよめさん!
かえでくんとけっこんしちゃった!
「でもねかのん。
ぼくたち、まだけっこんできないよ。」
「え?ど、どうして?」
やっぱり、
わたしのことすきじゃないの?
「おとなにならなきゃできないんだよ。
だから、
おとなになったらけっこんしよう?」
「……おとな?」
おとなって、どれくらいかな。
おかあさんくらい?
「こんどは、ぼくがかのんに
プロポーズするからさ。ね?」
「ぷろぽーず…?」
えっと、なんだろ、それ。
「プロポーズ、まだしらないんだね。
じゃあかのん。ぼくとやくそくして?」
「やくそく?」
かえでくんと、やくそく?
「やくそくは、わかる?」
「うん。ゆびきりげんまんでしょ?」
「クスクス、うん。そうだね。」
かえでくんのわらったかお、
さくらちゃんとそっくりだ。
「じゃあ、
ぼくとゆびきりげんまんしよう。
かのんがおとなになったら、
ぼくがかのんに
プロポーズして、けっこんする。」
「うん!」
ぷろぽーずってなにかわからないけど…
かえでくんと
けっこんできるならうれしい!
わたしはこゆびをだした。
えっと、こっちがみぎかなぁ?
「かえでくん、ゆびきりしよ?」
わたしはみぎのこゆびを
かえでくんのまえまでもっていった。
そしたら、かえでくんはゆっくり、
かえでくんのこゆびをわたしのこゆびに
くっつけて、ゆびきりのてになった。
「かのん。おぼえてて。
かのんは、ぼくのおよめさんだから。」
「うん!わたし、かえでくんとしか
けっこんしないもん!」
「よし。じゃあ、やくそく。」
「ゆーびきった!」
しずかなねんちゅうぐみのきょうしつが
わたしのこえでいっぱいになった。
♯約束♯ end
――――…。
《ピピピッ、ピピピッ》
………朝だ。
「眠っ……。」
私は重い身体をムクッと起こした。
《ピピピッ、ピピカチャ……》
目覚まし時計のボタンを押して、
アラーム音を止める。
「………寒いなぁー…。」
冬の朝って、本当に寒い。
折角布団を温めたのに、
この布団から出なきゃいけないなんて。
学校とか、サボっちゃいたいな。
服を制服に着替えて、
モコモコのタイツに足を通して。
鞄に今日の授業の教科書とノート、
あ、あと宿題の問題集を入れて…。
一通り準備を終えた私は、
部屋から出て、階段を下った。
《ガチャ…》
1階の、リビングのドアを開けた。
「おはよう、お父さん。」
ソファに腰かけているお父さんに
私は朝の挨拶をする。
「お、歌音。おはよ。」
お父さんは私の方を向き、
挨拶を返した。
……今日も格好いいです、お父さん。
どうしてそんなに格好いいんですか。
「奏乃ー。歌音起きたぞー。」
お父さんは
キッチンに向かって声をあげた。
「本当?あ、歌音。おはよう。」
するとお父さんの声に反応したらしい
お母さんが私を見つけ、挨拶してきた。
「ん、おはよう、お母さん。」
私も、挨拶を返す。挨拶は大事だよ。
…で、今日も綺麗です、お母さん。
どうしてそんなに綺麗なんですか。
今日も同じことを思う。
どうしてうちの親はこんなに若い?
いや、正しくは若々しい…だと思う。
お父さんもお母さんも、まだまだ
高校の制服とか着れちゃいそうだよ。
絶対に街とかに行くと
ナンパとか逆ナンとかされるよなぁ
と言うほど若い美男美女だ。
……よくこんな2人が出逢ったなぁ。
本当に、
奇跡って言うか運命って言うか…。
「葉月、
今日優杏と碧眞君が来るーって。」
「へー。何しにくるんだ?アイツら。」
「知らないけど、来るって言ってた。」
「ん、分かった。」
そしてこの2人の会話は……
なんかユルい…。
なんかフワフワしてると言うか、
なんかシャキッとしないと言うか。
見てる私からしたらなんか和む。
「あ、歌音も葉月も。
朝御飯出来てるよ。」
「うん、食べる。」
「俺も。」
お腹すいたー。
―――…。
「ご馳走さまでした。」
「うん。歌音、今日帰りは何時くらい?」
食器を片付ける私にお母さんは聞いた。
「今日も多分いつもと同じだよ。
予定が変わったらメールするね。」
「ん、分かった。」
返事をして再びご飯を食べるお母さん。
……我が親ながら、
人間離れした顔立ちだなぁ…。
お母さんもお父さんも…
娘のひいき目無しに顔が整いすぎてる。
「…………。」
鏡の前に立って、歯磨きをする私は、
鏡の中の自身の姿をまじまじと見た。
自分で思うのも変だけど、
私も人並みに顔は整っていると思う。
…そりゃあの2人から
残念な顔が生まれたら変だよね。
突然変異だよね。
お父さんにはお母さんに似てきたって
言われてるけど…お母さんには
お父さんに似てきたって言われたし。
両親2人とも中性的な顔の美形だから、
結局私がどっち似なのかは分からない。
……私としては、どちらでも良いけど。
お父さんもお母さんも好きだから。
「行ってきまーす。」
「あ、行ってらっしゃい。」
身だしなみを整えた私は家を出た。
《ヒュゥゥゥウウ…》
「……寒い。」
モコモコのタイツ履いてて良かったぁ。
ドアを開けた瞬間、
冷たい風に襲われた。
冬って…寒いよね。
私は電車通だから、
駅まで行かなきゃいけない。
お母さんも電車通だったって
言ってたなぁ。
駅まで15分、電車で30分、
学校最寄り駅から歩いてまた15分。
計1時間の道のり。
《ヒュゥゥゥウウ…》
寒いよぉ…(泣)。
高校が見えてきた。ここまで来ると
身体の芯まで冷えた感じ。
「歌音。」
「え。」
突然、後ろから
話し掛けられたと思ったら、
首にフワッと温もりを感じた。
今の声、それに首の温もりから薫る
甘いバニラの香り。
私は声がした後ろを振り向いた。
「楓!」
「よ、歌音。」
後ろには、楓が立っていた。
「寒いんだから、
マフラーくらいしろって
俺に何回言わせるんだお前は。」
「え、あ…。」
首に感じた温もりは、
楓のマフラーだった。
あ、またマフラー忘れた。
「なんだ、また忘れたのか?」
「………うん。」
「相変わらずだなぁ。」
楓は私の頭に手を乗せて、微笑む。
…また私、頭撫でられてる。
目の前の楓はとても格好よくて、
見惚れてしまいそうになる。
「ホラ、早く校舎に入るぞ。」
「……うん。」
楓、本当に格好いい。