今度、
葉月君に会った時確かめてみよう。
そう思ったのは秘密。
「天瀬君の誕生日って、いつかな?」
「え、うん?」
いつだったっけ。
前に教えてもらった気がする。
―――…。
『あれ?葉月君って8月生まれ?』
『おー、8月20日生まれ。』
『夏生まれなんだね。意外。』
………あ。
「……8月、20日だって言ってた…。」
思い出しました。
「8月20日?あれ、もしかして近い?」
………今日は何日だっけ。
カレンダーを見ると、8月14日。
夏休みに入って大分経ったなー…。
「………あと6日!?ちょっと奏乃!
ちゃんと何か用意してる!?」
「……して…………………ない。」
完全に頭から抜けてた。
そうだ、葉月君誕生日じゃん。
何かあげないと…。
「蒼空君と同じようにパーティーする?
蒼空君も呼ぶよ?」
パーティー…。
「勿論、天瀬君を連れてくるのは
奏乃の役目だから!!」
「連れてくる?って、
どこでやるつもりなの?」
「ここ。」
……………。
「え、どこだって?」
「ここ!」
「……私の家なんだけど…。」
「決まりー!」
聞けよ。
「大丈夫!!」
「何が。」
全然大丈夫じゃないし。
「とりあえず、葉月君の誕生会企画!
奏乃の告白作戦は…またの機会に!」
「……………もう良いよ。」
時鶴にはもう言葉が通じないらしい。
告白作戦って何だよ。
私が告白すんの?有り得ないでしょ。
「先ずはプレゼント選びー!
あ!マフラーなんてどう?」
「…………………え…?」
今なんと言いました?
「マフラーモコモコして気持ちいし!」
「………マフラー…?」
え、何だろう。このくだり、
またやらなきゃいけない系?
てゆうか、ここで時鶴に言っても
意味無い気がしてきた。
去年と、今年の蒼空君の誕生日と、
もう2回言ってるのに直らないし。
もう時鶴の中では
プレゼント=防寒具なんだよね、
きっと。
「マフラーは…クリスマスに贈るよ。」
もう何も言わないよ(遠い目)。
「クリスマス…!
あぁ、その手があったか!」
「………。」
時鶴は、今の季節を分かっているのか?
8月だよ、8月。夏休み真っ只中だよ。
「よし!
じゃあプレゼント買いに行こう!
マフラーじゃなかったら…手袋とか!?」
「………自分で買いに行くよ。」
「え、そうなの?」
もう勘弁して欲しい、防寒具達。
とまぁ、
何故か葉月君の誕生日パーティーを
我が家でやることに決定。
誰を呼ぶべきなのかな。
蒼空君の時みたいに4人で良いかな。
優杏達は…多分バンドメンバーで
葉月君を祝うだろうし。
あぁ、頑張らなきゃ。
葉月君に喜んで貰いたいし。
はい、やって参りました、8月20日。
まだまだ暑ーい日々が続いています。
「おーい、カナー。」
「んー、何ー。」
まぁ、ここは
エアコンのお陰で快適だけどね。
「今日は何かあんのか?」
「え。」
カフェって快適だよね。
「今日のカナ、何か変だけど。」
うっわ、マジか。
「急に一緒にカフェ行こうとか。
どうかしたのか?」
「えー…っと…。私が葉月君を
カフェに誘ったら変かな?」
誤魔化しの言葉って中々直ぐには
思い浮かばないよね。
「…あ、いや。
別に変とかじゃねーけど…。」
あれ。葉月君の綺麗な顔が
微妙な表情に包まれている。
は、いかん。
本来の目的を見失う所だった。
「あ、葉月君。」
なるべく、自然に話し掛ける。
いや、話し掛けてるつもりである。
「…ん、何?」
葉月君、
今日はブラックコーヒーなんだ。
今日は糖分は良いのかな。
「これ飲み終わったら…そのー…。」
ヤバい。いざとなると言いにくい。
「何だよ。」
うわ、
コーヒーを飲む仕草がカッコいい。
てゆうか、
手が…手が綺麗…っ(←馬鹿)。
「……おーい、カナー。」
「……Σ(-∀-;)!あ、あぁ、そうそう。
こ、この後ね、
家に、来てくれない、かなー
………なんて…。」
あぁぁぁぁ…。
なんて口下手なんだ私は。
もっと自然に家に誘えないのか…(汗)。
「……え、カナ。
家に…って、カナの家?」
「へ?あ、うん。」
「………どうゆう目的で?」
も、目的。
ヤバいどうしよう。考えてなかった。
ここで素直に
「葉月君の誕生会なのー。」とか
言ったら時鶴の反応が怖すぎる。
うわー、マジでどうするー。
あ、そうだ。
「な、夏休みの宿題でね。
どうしても解けない問題があって…。
は、葉月君、頭良いって聞いたからっ。
お、教えて貰いたいなーって。」
不自然極まりないぞ、私。
言い方のぎこちなさがヤバすぎる。
バレるだろう、これ。
「宿題?」
「う、うん。」
「……(だよなー…)。」
あれ?バレてない??
え、もしかしてバレてない…?
「だ…駄目かな?」
い、いける。
バレてないとしたら、行けるかも。
どうにか葉月君に来て欲しい一心で
葉月君をジッと見ながら聞いてみた。
「…はぁ…(上目遣い…)…。」
あぁ…溜め息…。
駄目かな…やっぱり…。
「分かった。行く。」
え…。
「ほ、ホント?」
「行くって。」
や、やった…。
時鶴、私はやりました。
葉月君エスコート(?)完了です。
《カランカラン》
「ありがとうございました。」
コーヒーを飲み終わった私達は、
さっき言っていたように、
私の家に向かう。
《カツッカツッ》
今日は時鶴に施された
完全版メイクアップだ。
フリフリのワンピースとか、
控えめに巻いたクルクルの髪の毛とか。
ヒールが高めのサンダル(?)とか。
とりあえず
普段よりは確実に動きづらい。
「……カナ。」
「…ん…?」
歩いていると、
隣を歩く葉月君から話し掛けられた。
「眼鏡、止めたのか?」
「……………眼鏡?」
……あ。
そう言えば、最近ずっとコンタクトだ。
「あー…。
眼鏡ね、度が合わなくなってきて。
視力がどんどん
下がって来てるものだから。最近、
コンタクトの方が良く見えるんだ。」
最近の私は視力の低下が著しい。
眼鏡じゃ見えない所が増えてきた。
「カナって何かやってんの?
目ぇめっちゃ悪いよな。」
葉月君が私に聞いてきた。
「分からない…けど…。
字を書く時、凄く顔と机が近いよって
言われるかな。」
ちゃんと書いてる文字が見える位置まで
顔を持ってきただけなんだけどね。
「へー…。」
「葉月君はコンタクトとか付けてる?」
「いや、
俺は裸眼で両目とも1.5だから。」
「え、嘘っ。」
目、良すぎ。
0.5だけでも分けて欲しいくらいだ。
「カナは?視力。」
「えー…っと。最近計ってないけど…。
前は、0.04ぐらいだったよ。
最近はもっと下がってるだろうけど。」
裸眼でいる人達が羨ましい。
「悪すぎだろ…。
それって裸眼でどれくらい見えんの?」
「この距離でも
葉月君の顔がぼやけるよ。」
「やべぇな。」
他愛の無い話をしながら、
私達は私の家への道をゆっくり歩いた。
歩いて、電車乗って、また歩いて。
結構長かった気がするけど、
まぁ無事に私の家に着いた。
「カナって勉強出来ねぇの?」
「勉強?」
何で勉強の話?
私は家の門を開けながら首を傾ける。
………あ、
宿題手伝ってって言ったんだっけ。
連れてくる口実だったわ。
「時鶴よりは良いけど…
悪くはない程度だよ。」
《ギィィィ…》
門を開ける。
えーっと、時鶴によると、
リビングにセットしてあるんだよね。
誕生会の準備。
《ガチャッ》
考えながらドアを開けた。
「どうぞ。」
「ん。」
「あ、えと…。
べ、勉強道具持ってくるから
リビングで待っててくれる?」
またどもった。
何でこう、自然に言えないんだ。
「んー、
リビングって、あのドアだよな?」
葉月君が廊下の突き当たりにある
ドアを指差す。
「うん、そこそこ。じゃあ、行ってて?」
「分かった。」
ぃよしっ!何とか時鶴に課せられた
ミッションはコンプリート(?)した。
私はそぅっと葉月君の後を付いていく。
時鶴達…ちゃんと準備出来たかなぁ。
葉月君はリビングのドアに手を駆けた。
《ガチャ…》
ゆっくりと開ける。
暗闇のリビングが
葉月君の背中越しに見えた。
………あれ?