Diva~見失った瞬間から~


『Diva』

それは憧れだった。


毎日、毎日。

同じように、馬鹿みたいに夢見てた。


何もかも見失った、あの瞬間まで。

本当に、ずっと。






《まもなく、次の電車が参ります。》

ザワザワ話し声が飛び交う駅のホーム。


「ねぇ、聞いた?Canzoneの新曲!」


「聞いた聞いた!!ヤバかった!」


「うんうんっ!

今度さ、カラオケ行って歌おうよ!!」


「絶対行くー!歌いたい!」


「………。」

私の後ろでキャピキャピと

盛り上がっている女子高生2人。


……煩いなぁ。朝っぱらからさ。


《ゴォォォォォ…》

待ってる間に電車が着いた。

私は電車に乗る。


私が乗る電車は空いている。

だから適当な所に座って学校の

最寄りの駅まで移動する。


ふと、隣から微かに音楽が聞こえる。


チラッと横を見てみると、イヤホンで

音楽を聞いている男子高生がいた。

………音量もっと下げてよ。

音こっちまで漏れてるっつーの。


電車内を軽く見渡しても、

音楽を聴いている人は結構いる。


目の前には、さっき私の後ろに居た

女子高生2人が座って、

まだ同じような話をしている。


今日も、同じだ。

この世界の人は、音楽を必要としてる。





―――…。


「おはよう。」


「あ、奏乃(カナノ)!おはよー!」

教室に着いて挨拶をすると、

幼なじみで親友の牧原時鶴(マキハラ シズ)が

真っ先に挨拶を返してくる。


ニコニコ可愛らしい笑顔を浮かべながら

私に朝イチで寄ってくる。

………マジで可愛い…。


「ねぇねぇ、

今日の放課後さ、奏乃って暇?」

どうやら時鶴は遊びたいらしい。


私は大抵、家から出ない人間だから

こうゆう誘いは断るのだが。


「暇だけど。」

時鶴の場合は特別である。


「ぃやったぁ♪ヽ(´▽`)/

ね、ね、駅前のカフェ行こうよ!!」

時鶴はホントに可愛い。

だから私も甘やかしてしまう。


「駅前のカフェ?」

駅前にカフェなんてあったっけ。


「あ、うんっ!新しくオープンしたの!」

へぇ…知らなかった。


「カフェ♪カフェ♪」

時鶴は可愛いけど…

もう少し周りを見て欲しいと思う。


周囲を軽く見渡すと頬を赤らめながら

時鶴を凝視する男子が数名いるのだ。






《キーンコーンカーンコーン》


「あ、ヤバい!!SHR始まっちゃう!

じゃあ奏乃!またね?」


「うん。」

私に笑顔を向けながら、

軽く手を降る時鶴。


……ホラホラ。

さっき言った数名の男子が

時鶴を目で追っている。

こりゃ今日の昼休みも来るな。


時鶴は真ん中の列の前から2番目。

私は窓際の列の1番後ろ。

結構離れていると思う。


《ガラッ》


「おっし。SHR始めるぞー。」

担任がいつものように入ってきた。


今日の学校の始まり。





《キーンコーンカーンコーン》

いつの間にかチャイムは

4時間目の終わりを告げていた。

授業って短いと思う。

ホントに50分もやってるの?


昼休みとなり、時鶴はお弁当を片手に

私の席に真っ先に向かってくる。


「奏乃!お弁当食べよ♪」


「うん。」

お弁当は、大抵

私の席で喋りながら2人で食べる。


……まぁ、

時鶴は途中で何度か抜けるけどね。


「牧原さん、居る?」

ホラ来た。


「うわぁ。また来た…。

ごめん奏乃。ちょっと行ってくるね?」


「うん。」

大抵、時鶴は昼休み呼び出される。

それも、男子から。

先輩、後輩、同級生と。学年関係なく。


…あ、帰ってきた。


「奏乃。ごめんね。お弁当食べよ!」


「うん。」






「時鶴、今日も?」


「うん。コクられたよー!

先輩だったし…。もうやだぁー。」

そう。時鶴はモテるのだ。


身長155cmで細い体型。

目はパッチリとした二重で、

睫毛は長くて、くるっと上を向いてる。

色白で、綺麗な栗色の髪の毛。

モテる容姿だと思う。


でもまぁ、彼女はそれを

嬉しくは感じていないらしい。

何故なら…。


「あたしには蒼空(ソラ)君がいるのにー!」

絶賛溺愛中の彼氏がいるからである。

一途な所も、私が時鶴を好きな所。


蒼空君とは、篠塚(シノヅカ)蒼空君。

私達の1つ歳上で、現在高校3年生。


一言で片付けるとイケメンである。

部活動の推薦で入学して、

近くの男子校に通っている。


時鶴の親友とゆうことで、

私も仲良くして貰っている。


「奏乃ぉー。蒼空君がぁー。」

そして彼もまた、

時鶴に絶賛溺愛中である。


ハタから見たら美男美女カップルだが、

私から見たら若干バカップル要素も

含んでいると思う。


「奏乃ったら!聞いてるの!?」


「え、聞いてない。」


「ひどいよー!」

可愛らしい時鶴に比べ、私はごく平凡。


腰まで伸ばした

無造作でストレートな黒髪。

視力が悪いためにかけている黒縁眼鏡。

身長は163cmで、体重は…考えない。

どこにでもいる、女子高生(眼鏡付)。


別に自分に対して

コンプレックスが無いわけでもないが、

時鶴を僻んだりしたことは一度もない。


彼女にだって様々な

悩みがあるのを知っているし、

時鶴は時鶴。

私は私だと思っているから。


だから周囲の時鶴に僻んでいる女子達は

何なんだろう、と思う。


馬鹿みたいに化粧して、私に言わせれば

自分で自分の肌荒らしてんじゃん

って感じだ。


まぁ、私には関係無いけど。


時鶴に何かしたら、守るだけだし。





「あ!ねぇ、奏乃!」


「ん?どうした?」

時鶴が何かを思い出した様子。

時鶴って急に色々思い出すんだよなぁ。


「あたし…なんかスカウトされたの!!」


「………………え?」

スカウト?


スカウト…って…。


「この間ね…スーツ着たお姉さんが

モデルに興味無い?って聞いてきて!」

あ、モデルか…。


確かに、納得の出来る話だ。

時鶴だったらそこら辺のモデルより

絶対に売れると思う。


「………でね、そのぉ……。」


「……………………………何。」


「や、やってみて良いかなっ!?」


「…ソレ、何で私に聞く?」

時鶴は可愛い。それに優しい。

でも、頭が少し残念な部分がある(汗)。


まぁ蒼空君は、

そんな時鶴が好きなんだろうけどね。


「だ、だって…その…。

蒼空君に言えないんだもん…。」

ちょちょちょ…待て待て。


「待って。蒼空君に言ってないの?」


「え……、うん…。」

何で。