『カナが自分から言えるようになるまで
待とうと思った。』
……。
頑張らなくちゃ…と、
"箱"を開けてはならないのだ、と。
必死に私は自分に言い聞かせる。
でも、葉月君と居ると…
その決心が揺らぐというか…
忘れそうになる。
鈴に似た安心感を抱いてしまうから、
1人じゃ無い感覚に似た錯覚に溺れて…
私が頑張らなくても
良いんじゃないかって。
馬鹿だよね。
葉月君の側は確かに安心出来るけど、
彼には彼の居場所が在るんだから。
葉月君が
私にどんなに優しくしてくれても、
私が1人なのは、変わらないの。
結局、私の居場所は"彼女"だけなのだ。
今日眠りにつけば…
また、鈴に会えるかな。
夢でも何でも、
鈴に会えるのは本当に嬉しい。
幻でも、記憶の再生でも。
笑っている鈴が見られるのは嬉しい。
……でも、ここ最近の鈴は、何か違う。
笑っている。私に話し掛けてくれる。
『カナ。あたしね…。』
けど、
最後まで話を聞けたことは1度も無い。
どうして?
どうして鈴は伝えようとしてくれるのに
その言葉は私には聞こえないのだろう。
後は…鈴の私に対する質問だ。
『今、幸せ?』
必ず私の幸せを確認してくる。
鈴が居ないから幸せじゃ無いと言ったが
そう私が答えると
鈴は悲しげな表情をする。
どうして?
鈴は、私が鈴を忘れることを恐れた。
だから私は、
鈴を忘れまいとしているのに、
どうしてそんな悲しげな表情をするの?
…………ホント、分からない。
《~♪~♪》
「あ…。」
携帯が鳴った。
この着信音は、3年前から変わらない。
私と鈴の一緒に居たという証の1つ。
「……何だ、時鶴からか。」
内容は、至って普通のモノ。
特別課題が全く解けないとのこと。
……仕方ない。明日教えよう。
そう返信を打ったら、
私はまた夕食の準備。
夜、私は1人。
2人に戻ることも…3人に戻ることも
もう2度と無いのだろう。
孤独を感じながら生きていくのだろう。
『奏乃って言うの?素敵な名前!!』
手を差しのべて…時間を共にする相手も
きっと、もう一生現れない。
奇跡は…1度だから。
だから人は…ソレを奇跡と呼ぶのだ。
「かーなのっ♪」
「うゎっ…。」
後ろからギュッと抱き付かれた。
後ろを向いて確認するまでもない。
「時鶴。どうしたの?」
私に迷いなく抱き付くなんて、
時鶴くらいだ。
「奏乃っ♪
今日こそ駅前のカフェ行こうよ!」
「カフェ…?」
今日こそって…ん( - _・)?
「奏乃にずっと前に却下されたのっ!!
今日は絶対に行くんだからっ!」
あぁー…そう言えば…
そんなこともあったなぁ…。
時鶴、まだ覚えてたのか。
「良いよ。行こう?」
私は時鶴に微笑んで、返事を返す。
「ホント!?やったぁ♪ヽ(´▽`)/」
時鶴…やっぱ可愛い。
《カランカラン》
オシャレな鐘の音が
ドアが揺れる度に響く。
時鶴に連れてこられたカフェは、
ドアの鐘の音と同様に、
オシャレな感じのカフェだった。
「いらっしゃいませ。2名様ですね?
お席をご案内致します。」
ピシッとした感じのお姉さんに
席を案内された。
「ご注文はお決まりですか?
お決まりでない場合はまた参ります。」
「あ、じゃあ…この苺パフェください!」
……………………え、時鶴。マジ?
「かしこまりました。
お客様はいかがなさいますか?」
お姉さんが私の方を見て微笑んだ。
「あ…えっと、じゃあカフェオレを。」
「かしこまりました。
少々お待ちください。」
お姉さんは注文を聞くと、
メニューを持ち、私達に軽く礼をして
裏方に戻って行った。
働くお姉さん…。
歳幾つ?大学生くらい?てかバイト?
………どうでもいいわ…。
本気でどうでもいい思考を
巡らせている中、事件は起こる。
《~♪~♪》
突如、音楽が鳴った。
携帯の音…?でも私のじゃないな。
「あ、奏乃ごめん。あたしの。」
なんだ、時鶴のか。
「別に良いよ。」
私の言葉を合図に時鶴は電話に出た。
「もしもし?あ、片桐(カタギリ)さん!
え…何?……うん。………うん?」
カタギリさん…って、
マネージャーとかか?
大抵時鶴は友達は名前で呼ぶし。
「………え!聞いてないよぉ!!
無理無理っ!!
……えぇ( ´△`)、わ、分かったよ…。」
不貞腐れた顔で電話を切った時鶴。
……何となく嫌な予感。
「奏乃っ!!ご、ごめんなさいっ!」
あぁー…ホラやっぱり。
「どうしたの?」
私は優しげな声で時鶴に聞いた。
「なんか…今日撮影無かったのに…。
急用で来れなくなった
モデルさんが居るから
代わりに出て欲しいって…。」
モデルは大変だなぁ。
「良いよ別に。行っといで?」
「奏乃ぉ…ありがとう!!」
時鶴は超特急でカフェから出ていった。
「………( ̄ー ̄;)。」
さて。私はどうしよう。
カフェオレ頼んじゃったし…てか待て。
まさか…時鶴が頼んだ苺パフェも私が?
む…無理無理っ( ̄ロ ̄lll)!
パフェとか…胃壊す!(←何気胃が弱い)
「お待たせ致しました。
カフェオレと苺パフェでございます。」
って!もう来ちゃったし(|| ゜Д゜)。
「あら?
お連れ様は御手洗いでしょうか?」
時鶴が居ないことに気づいたお姉さんは
私と時鶴が
居た席を交互に見ながら聞いた。
「……いえ、さっき帰りました…。」
時鶴。
せめてパフェだけは食べていけよ。
「まぁ…。大丈夫ですか?」
お、お姉さん…良い人…!
「はい。大丈夫です。」
笑顔で返してしまう私。
「そうですか。では、ごゆっくり。」
お姉さんは、また裏に戻った。
…………どーしよーー…。
パフェ、食べれる気がしない。
「……あれ。奏乃?」
呆然と、ただ目の前に佇む苺パフェを
見つめていたら、
後ろから名前を呼ばれた。
え、男の人の声だ。
でも、聞こえたソレは、葉月君でも、
はたまた蒼空君の声でもなかった。
え?私を名前で呼ぶ男の人って…?
私はゆっくりと後ろを向いた。
「あ、やっぱり奏乃じゃん。」
「に、西谷さん…。」
そこには、背が高く、
葉月君とはまた違った雰囲気を持った
美青年、西谷さんが居た。
「久しぶり。いつぶりだ?」
西谷さんは、迷うことなく
さっきまで
時鶴が座っていた席に座った。
「……事務所で新曲聞いた時以来です。」
西谷さんは、なんか葉月君に似てる。
いや、雰囲気は違うんだけど。
なんか…なんか、似てるんだよ。
「奏乃さぁ、
いつもこんな学校帰りの放課後に
カフェに来てそれも1人で
パフェとカフェオレを頼んでんの?」
西谷さんは
私達の使うテーブルに乗っている
カフェオレと苺パフェを見ながら、
クスクスと上品に笑った。
「なっ…いや、違いますよ…。
今日は友達と来たんです…。
帰っちゃいましたけど…。」
時鶴、やっぱりパフェは
食べていって欲しかった…!
「ふぅん…。パフェ、食わねえの?」
「…私、胃が弱いので…。
あまりそうゆうモノは食べません…。」
食べると胃がムカムカする。
「……じゃ、俺が貰って良い?」
「え?あ、どうぞ…。」
「いただきまーす。」と言って
目の前に座る西谷さんは
パフェを食べ始めた。
な、なんてシュール…。
いや、別に変じゃないけど…
いや、変だ。
「……西谷さんは、
パフェ、お好きなんですか?」
随分と
パフェの食べっぷりが良いもんだから、
私は自然と口を開き、質問していた。
「ん?まぁ…
甘いものは嫌いじゃないな。
優杏も翡翠も葉月も好きだしな。」
「へぇ…。」
葉月君、甘いもの好きなのかぁ…。
「ん。ごちそうさま。」
「えっ?早っ…。」
人間か、この人。私のカフェオレ
まだ半分も減ってないよ。
「……奏乃さぁ、葉月とどんな関係?」
「………え、関係?」
西谷さんはパフェを食べ終え、
一息つくとテーブルに肘を付いて、
手に顎を乗せた。
そして、わたしを真っ直ぐ見ながら
疑問をぶつけてきた。
「あぁ。ぶっちゃけ…付き合ってんの?」
「ゴホッ…。」
あまりに突拍子もないことを言われて、
カフェオレが食道じゃない管に行った。
最悪だ。むせた。苦しい。
「あれ?ちげーの?」
「ゴホッ…ゴホッゴホッ…。
違いますよ…。
付き合ってる訳ないです…。」
ホントに何言ってくれちゃってんの。
カフェオレが変なとこ入ったせいで
苦しくて辛い。
「……ふーん(゜-゜)。
付き合ってねぇのか…。」
私があんな美形と付き合ったら
釣り合いを取れる自信がないです。
うん。
「じゃぁいい。話替える。」
「はぁ…。」
「最近、全然聴きに来ないのは何で?」
「…………。」
思いっきり痛いとこ突かれた。