Diva~見失った瞬間から~


「時鶴ちゃん、どこ行ったのかしら?」

どうやら

先生も同じ疑問を抱いたらしく、

大きな目をさらに大きくさせていた。


てゆうか、ホントにでかい。

どうやったら

そこまででかくなるんだろう。


《キーンコーンカーンコーン》

あ、チャイム鳴った。


私が保健室に来たのは

昼休みが始まってから

5分経ったくらいだった。


で、うちの高校の昼休みは40分だから…

計算すると30分は経っていたらしい。


てか、

30分ずっと寝てたのに体調悪化とか…

どんだけだよ。


《ガラッ》


「奏乃っ!迎え来たよ!!」

だから、時鶴。


保健室とか、図書室のドアは

もっと静かに開けてってば。


……………て、あれ。





「な…時鶴、迎えって…。」

時鶴の後ろにいる人を見た私は絶句。


その人はゆっくりと

私の寝ているベッドに

近づいて来て、言った。


「カナ、大丈夫か?」

………私を"カナ"と呼ぶのは、

以前1人だけ居た。


そして、今。今も…1人だけ居る。

2人は別人なのに、

私を"カナ"と呼ぶのだ。


「じゃあ、

奏乃のこと宜しくお願いします!!

天瀬君っ!」

時鶴が笑顔を浮かべて言う。


そう、私を迎えに来たのは

他高校の制服を着た葉月君だった。






「ちょっ、葉月君?学校は…?」

あなたも高校生でしょう。


確かに蒼空君じゃない分、

幾分はマシだが

葉月君は葉月君でナイだろ。


私は入口に立っている時鶴に

少し鋭い視線を送る。


「早退した。だから、問題無し。」


「そ、そうそうっ!

蒼空君に協力して貰ったの!!」

大有りでしょうよ、馬鹿。


時鶴あんた、彼氏に何サボりの理由

作らせてんのよ。


「時鶴…あのね…。」

今日こそは言ってやろう、

と思って私は起き上がった。


…………目の前が歪んだ。

き、気持ち悪い…。


「………(-ω-lll)…。」

驚いた。起き上がると声も出せない。





「………カナ、荷物は?」


「………。」

ごめんなさい、葉月君。喋れない。


「あ、天瀬君っ!ここにあるよ!」

時鶴が代わりに答えた。


「そう。じゃ、帰ろうか。」

待って。まだ立てません。


起き上がるだけで気持ち悪い。

葉月君には悪いが、

とても立てそうもなかった。


「カナ、立てない…か。」

どうやら分かってくれたようで。

葉月君。君は本当に紳士だね。


「じゃあ、ちょっと揺れるだろうけど、

我慢してろよ。」


「え……、ぅわっ…。」

なんと言うことだ。


私は、葉月君に持ち上げられた(?)。





ちょちょちょ…待って。マジで待って。

コレ、アレだよね。

お姫様抱っこ(?)だよね。


うわぁ、マジで恥ずかしい…とか、

か弱いヒロインみたいに

言ってられないんですけど!


怖いっ!!怖すぎるっ!!

落ちる落ちる落ちる落ちる!!


ただでさえ視界がぐわんぐわんなのに、

その上地に足着いてないとか。


羞恥心とかそんなの気にしてる場合か。

恐怖心が半端ない、本気で。


漫画とか小説とか、

ヒロイン高所恐怖症だったら

絶対成り立たないぞコレ。


しかも何コレ。

葉月君歩くの速すぎ。怖いってまじで。


気持ち悪い+半端ない恐怖心で

私、今にもおかしくなりそうです。


「カナ、平気?」

なワケ無いだろぉぉぉ…。


下を見ると…怖いし。

正面見ても…速くて怖いし。

目を瞑ったら足浮いてて怖いし。

何より気持ち悪い…。


でも不思議と揺れはしなかったと思う。

葉月君、スピード半端ないけど、

揺れないように運んでくれたらしい。

怖いけど。


「カナ、タクシー乗るよ。」

タクシーで帰るらしい。


タクシーの後部座席に座らせて貰うと

とりあえず地に足が着いて一安心。


お姫様抱っこ、恐るべし。






「カナ、家どこにあんの?」

葉月君が聞いているのが分かったけど、

今声を出すと声と一緒に

とんでもないモノも出てきそうだ。


「………っ…。」

私は無言で胸ポケットに入っている

生徒手帳を取り出した。


コレに住所が書いてあるから。


「………?住所が載ってんの?」

コクコク、と私は頷いて見せた。


うぇ…気持ち悪い…。


「………すいません。○○町の…。」

こうして私は、何故か葉月君に

家まで送られたのだった。





『カーナッ!』

この声は…。


『カナ、大丈夫?』

…………鈴?


『ねぇカナ。今、幸せ?』

……………え。


懐かしい質問だね、鈴。


『あれ。前もしたっけ。こんな質問。』

うん。したよ。


『ふふっ………ねぇカナ。今、幸せ?』

今って…今?


『うん。』

鈴が居ないから、

全然幸せじゃないかもね。


『……カナ。あたしはね…?』

え、何?


『あたしは…―――。』

聞こえない。


聞こえないよ、鈴。





「………ん…。」

頭がボーッとする。


「あ、カナ。起きた?」

鈴…じゃ、ない。

葉月君だ。


「今さっき家に着いて、

悪いと思ったけど鍵開けた。

寝てたから。カナの部屋、どこ?」


「………2階…の、1番…奥…。」

さっきよりも幾分マシになった。


とゆうよりは、熱が上がったのか

さっきより頭がボーッとして、

気持ち悪いというより何も感じない。


《ミシッ…ミシッ…》

葉月君が私を抱えて2階に上がる。


さっきは恐怖心半端なかったのに、

今は熱のせいで気にならない。


「ここか?」

葉月君は、

私の部屋のドアの前で止まった。


私はゆっくりコクッと頷いた。


《ガチャ…》

私を抱えたまま、

葉月君は器用にドアを開けた。


「……ん、しょっと…。」

すぐにベッドに寝かせてくれた葉月君。


自分の部屋は、やっぱり落ち着く。


「……熱、上がってんな。」


「…………そー…?」

あ…何か凄く眠い。


私は目を閉じそうになる。

眠い…。


「寝てな。起きるまでいっから。」

葉月君はそう言うと

私の部屋の額と目の上に

優しく手を置いた。


なんて…心地良いんだろう。

でも…まだ、寝れない…。

だって…。


「………ふ…た…。」


「?蓋?」


「閉め…なきゃ…。ピアノ…。」

あぁやばい。ホントに眠い…。


「俺が閉めとくから、寝てろ。」

…………ホント?

じゃあ…寝ようかな…。


「……おやすみ、カナ。」

私は、目を閉じた。





『――…。』

…………あ。


『――…。』

この、メロディーは…。


遠い意識の中、綺麗に空気と溶け合う

ピアノの音だけがはっきり聴こえた。


それも、酷く懐かしい旋律。


『――…。』

この曲…

もう、聴くことはないと思ってた。


『――…。』

この曲は、

私以外の人に聴かれること無く

消えていくハズの曲。


でも、何故?

私、演奏してない。

ピアノ弾いてないのに。


『――…。』

何故…奏でる音が聴こえるの?