『聴きたい聴きたい!』
止めて…っ。
『今度の曲はさぁ…。』
嫌だ…嫌だ…。
『忘れないで…。』
………。
「………ぁぁああぁぁあ…っ。」
思い出させないで。
忘れてないから。覚えているから。
あなたと居た時間は、幸せだった。
それは、
あなたが居ない時間の分の幸せをも
持っていったのかと言う程に。
『カナ。あたし、幸せだよ?』
あなたは、私の目の前に現れるのに、
私はあなたに触れることが出来ない。
あなたは、私に話し掛けてくれるのに、
私は答えることさえ出来ない。
それは、私が知っているから。
あなたが実体の無い幻で、
あなたに逢いたいが為に、
私の脳が勝手に造り出している
幻影だと言うことを。
「…………。」
ったく。何で朝って毎日来るの。
月曜日の朝っぱらから
朝と言うものに嫌悪感を抱きながら
私は携帯のディスプレイを見る。
「………10時10分。」
うわ、私って凄い。ぴったりだ。
って、あれ。今日って、月曜日。
祝日でもないし振り替え休日でもない。
完璧に、滅茶苦茶普通の平日。
で、私は一応、女子高生。
「…………完っ璧、遅刻…。」
寝過ぎだよ、私。
結局…
昨日は掃除を最後まで出来ないまま…
ピアノをそのままにして部屋を出た。
…ピアノの蓋開いたままだ、多分。
で、その後は何もせずに寝た。
また夢を見たりして、
夜中に何度も起きた。
最後に時計を見たとき午前5時だった。
で、今起きたら10時10分。
後1時間くらい寝れるなぁと思って
もう1度ベッドに寝っ転がった
私が馬鹿だった。
「……着替えよ。」
学校に、行かなきゃな。
朝御飯…要らないや。
ジメジメしてる、6、7月って嫌いだ。
気分が悪いったらない。
《ガチャッ》
《ザァーーーー…》
本当に、最悪。雨降ってるし。
私は傘を差して歩き出す。
吸い込む空気が湿っぽい。
埃と水分が混じる匂いが本当に嫌だ。
《バシャッバシャッ》
歩く度に水を弾く音がする。
……マジで気分が悪い。悪過ぎる。
このどしゃ降りのせいか
朝が元々弱いからか
頭がぐわんぐわんする。有り得ない。
駅って…こんなに遠かったかなぁ。
早く電車に乗ってゆっくりしたいよ。
今日程、学校に行くのが
怠いと思ったのは無いな。
……いや有るか。
《ザァーーーー…》
雨…うるさい。
《ガラ…》
多分、3時間目の授業をしているだろう
自分の机と椅子がある
教室のドアを静かに開ける。
「えー、
この場合ここに公式を当てはめて…。」
3時間目は数学ですか。
うげぇ、担任じゃないか…。
私は無言で、静かに自分の席に向かう。
椅子を引いて座ろうとする。
「コラ、相澤。先生への一言が無いぞ。」
無駄に若く見えるんだよねー、
うちの担任。
「…頭痛、吐き気、天候で遅れました。」
何歳だっけ。28だか、29?
どうでも良いんだけど。
「…そんなに気分悪いなら
無理して来るなよ。」
「平気ですから。」
もう良いから、授業を再開してくれ。
視線が集まるでしょうが。
あぁ…気持ち悪い。
心情的にも、身体的にも。
「まぁ、無断欠席よりはマシだがな。
よし、この問題だが…。」
やっと再開したか。
「きりーつ。」
《ガタガタッ》
「れーい。」
「「「「「ありがとうございましたー。」」」」」
「おー。ちゃんと課題やれよー。」
あぁ、やっと終わった。
今だかつて、これ程授業を
長く感じたことがあっただろうか。
授業を終えても、
私の気分は絶不調だった。
あー、目眩がするわぁ。ヤバい。
「かーなのっ♪」
「…………。」
「えっσ(゜∇゜;)無視っ!?」
「……あぁ、ごめん…。」
今日は
そのテンションに付いていけない…。
時鶴よ、すまん…。
「……奏乃。顔色悪いけど……。」
時鶴は机に顎を乗せる状態の
わたしの顔を覗き込む。
「………んー。」
プイッと顔を背ける私。
風邪とかだったら時鶴に移るし。
「……奏乃。
いつもの覇気が無いんだけど…。」
「………………。」
流石時鶴。
だてに幼馴染みやってないな。
「かぁなぁのぉー?」
あぁぁぁあああ……。
「…………………気のせいじゃない?」
せめてもの抵抗。
「保健室行こう?」
…………無駄だったけど。
「時鶴…だからマジで平気だって…。」
「どこが!
今だってフラフラも良いとこだよ!?」
「……くぅ…。」
無念。て、何言ってんだ私。
結局…時鶴に具合が悪いことがバレて
(まぁ担任に言ったけど)保健室へ連行。
《ガラッ》
「せんせー、居るー?」
おい時鶴。
「失礼します。」は言おうね。
「あら時鶴ちゃん!!どうしたの?」
って、先生も注意しようよ。
あぁもう…私はいつの間にか
時鶴の保護者みたいに
時鶴に世話を妬いている気がするよ…。
「奏乃の顔色が蒼白いのっ!!」
「蒼白っ…(-∀-;)。」
おい時鶴。もっと言い方が有るだろう。
蒼白いとか…私どんだけだよ。
「あらまぁ。奏乃ちゃん、顔を見せて?」
やだやだ。ここで早退とか言われたら
ここまで来た努力が水の泡じゃんか。
「いえ、時鶴の見間違いです。
私は全然健康なので平気です。」
出来るだけ先生に顔を見せないように
あくまで自然に顔を背けて言った。
「平気でも良いから。顔見せて。」
……………この先生、やるな。
「先生って、お綺麗ですねー。
モデルみたーい。見惚れますぅー。
ずっと見ていたいくらいー。
そんな先生が私みたいな平凡な顔なんて
見ても仕方ないですよー。」
「あら、ありがとー。先生嬉しいわぁ♪
ずっと見ていても良いわよぉ♪
私も奏乃ちゃんに見て欲しいわぁ♪」
て、手強い。
この先生…隠れボス並みの強さだわ。
「はい、隙有りー。」
「むごっ…。」
おい何だ、ここの保健医。
お構いなしに
生徒の口に体温計突っ込んだぞ?
「せんせー、奏乃どうぅー?」
「時鶴ちゃん待ちなさい。
まだ分かんないわ。」
おいコラ、時鶴。
呑気に話してないで助けろや。
………あぁくそ。気持ち悪い。
頭が全っ然回らないし。
《ピピピッ…》
うおΣ( ̄ロ ̄lll)。
この体温計意外に早いぞ。
「はい見せてー。」
「んがっ。」
突っ込んだ時も突然だったけど…
口から抜き取るときも突然…
そして荒い。
こんなに美人で優しそうな先生なのに
やることが若干豪快な気がする。
「時鶴ちゃん。」
「はい。」
え、あれ?
何で先生私じゃなくて時鶴を呼ぶの?
私の体温を計ったんだよね?
「奏乃ちゃんの鞄とか
何やら持ってきて。」
「了解でーす。」
「はい?」
ちょ、ちょちょちょ…。待て待て。
「先生、一体何を…
私さっき学校来たばっかですよ?」
こんなに早く帰ったら
担任に何て言われるか。
時鶴は、
私が先生に質問(?)している間に
「行ってきまーす。」と言う声が
聞こえた。
……時鶴のヤツ。
私まだ帰るなんて言ってないのに
鞄取りに言ったな。
「奏乃ちゃん。朝から気分悪いの?」
え、私の訴えを完璧に無視。
え、マジでか。
「………まぁ、はい。」
もう良いよ、めんどくさい。