「ただ、カナに聴いてほしかった。

カナに、

俺達の曲を聴いてほしかったんだ。」

目の前にいる葉月君は、

私を真っ直ぐに見つめてそう言った。


なんで、私なの?

私はまだ納得がいかないのだ。


「私、Canzoneって

バンドを知らないんだよ?

音楽には興味を示した覚え無いよ?

音楽に関わる話もしなかったよ?」

"あの日"。"あの日"以来、

私は私の中の音楽と

言うものを封印した。


消し去ることは出来なかった。

"彼女"との、

思い出を持っていたいから。

"彼女"と私が

一緒に過ごした時間の証だから。


私は私の封印した箱の中で、

"彼女"と造った宝物を、

"彼女"と過ごした証と共に守っている。


「なんで、

私に聴いてほしいと思ったの?」

だから、お願い。


「私なんかに聴かせても、

何も変わらないよ。」

箱を開けないで。


「何でそこまで聞きたがる?」


「えっ。」

今喋ったのは葉月君じゃない。