「翔太。」
ビクッ
翔太くんのお母さんが翔太くんの名前を呼ぶ。
歪む翔太くんの表情。
私は強く翔太くんの手を握る。
翔太くんは一人じゃないよ。
私がいるよ。
翔太くんもまた私の手を強く握る。
「翔太、本当にごめんなさい。」
翔太くんのお母さんが泣いている。
そして続けて、
「私はあの女が許せなかった。だから翔太にあたってしまったの。本当は翔太のことを愛していたの。でもあの女とどうしても被ってしまって....。」
「......。」
泣きながら喋り続ける翔太くんのお母さんを黙って見つめる翔太くん。
「翔太愛しているわ。今まで本当にごめんなさい。やっとアナタを受け入れられる。だから戻って来て。」
翔太くんは本当は愛されていたんだね。
よかったじゃん。
翔太くんはもう一人じゃないよ。
たくさんの人に愛されてるんだよ。
寂しくて翔太くんの手を強く握る。
何やってんだろ。
翔太くんを落ち着かせるために手を握ってたのに。
私のために手を握ってる。
「もういいですよ。でも....」
翔太くんは少し間をあけてこう言った。
「僕は帰りません。やりたいことが出来ました。居場所が出来ました。」
私を見つめて微笑む翔太くん。
一緒にいてくれるの?
私はただ翔太くんを見つめる。
「言いたいことはそれだけです。では。」
翔太くんはそう言って立つと私に手を差し伸べる。
「帰ろう?僕たちの家へ。」
「うん!!」
私はその手をとった。
「翔太がやりたいことなら止めないわ!!今まで縛ってきた分、のびのびと生きてほしい!!でもいつでも帰って来ていいんだからね!!」
翔太くんのお母さんの声が後ろから聞こえる。
その時の翔太くんの幸せそうな顔。
よかったね、翔太くん。
私も嬉しくて笑った。
幸せだ。
「みんな〜!!行くよ!!」
翔太くんは可愛い笑顔を浮かべてそう叫ぶ。
翔太くんの声を合図に流れ出すのはテンポの早い音楽。
それに合わせてみんながキレッキレのダンスを披露。
そして奏くんのバク転!!
「すっすごーい!!」
パチパチパチッ
私は勢いよくたって拍手。
すごい!!
すごいよ!!みんな!!
なんか....
「アイドルみたい!!」
「あの〜、俺たちアイドルですけど?」
「うわっ!!?」
いつの間にか私の横に立っていた千尋くん。
さっきまでステージに立っていたのに....
うっすらと汗をかいている千尋くんは確かにさっきまでダンスを踊っていた。
「タオルねーのかよ?」
「タオル?ないよ。」
額の汗を服の袖でふいている千尋くんにそう答える私。
今日は遊園地ライブのリハーサルの日。
このためにこの遊園地を全部貸しきってるらしい。
吉佳さんが。
吉佳さんって一体何者なんだろう?
今日は土曜日で暇な私はみんなに(主に翔太くんに)強制的にここへ連れて来られた。
家事が本当はしたいのだが。
「あるじゃん。」
「あっ!!ちょっと!!」
千尋くんは私が首にかけていたタオルを取って汗をふく。
乙女のタオルでなんてことを!!
「洗濯して返せ!!」
「洗濯すんのはお前だろ〜。」
「アンタが洗濯すんの!!この口悪男!!」
「はぁ〜!!?口悪男ぉ〜!!?」
「ストップ!!」
ケンカをしている私たちの間に入る祐希くん。
「まー二人とも落ち着けって!!それよりもうリハ終わりだから遊ぼーぜ!!な?」
「本当!!?うん!!遊ぶ!!」
八重歯が眩しい祐希くん。
やったー!!
遊べる!!
「チッ。わかったつーの。」
千尋くんは納得いかないような顔をしながらも遊ぶために移動。
ふふっなんだか楽しくなりそう!!
それから雪斗くん、翔太くん、奏くんとも合流。
「遊ぶ?もちろん遊びたい!!美紀と遊びたい!!」
と可愛く言ってらっしゃるのが翔太くん。
「.....眠たいけど、美紀のお願いなら。」
雪斗くんも眠たそうなお美しいお顔を縦に振ってくれた。
あとは奏くんなんだけど.....
「うぜぇ。近寄ったら殺す。」
ヒィィィィッ
そう言えば奏くんってかなり怖いんだった!!
めっ目で!!
あの鋭い目で三枚下ろしにされるー!!
美紀のお頭とかにされちゃうー!!
「奏!!いーから遊ぶの!!美紀のお願いなんだから!!」
翔太くんが可愛くほっぺを膨らませて奏くんに怒る。
よくあんなにウルトラスーパー恐ろしい奏くんに怒れるものだ。
「.....ったよ。」
奏くんは渋々って感じでうなずく。
「美紀?美紀のお願い聞いてあげたんだからもちろんご褒美くれるよね?」
「ほいっ!!?」
耳元で翔太くんに囁かれて、正直くすぐったい。
「はい、イチャつくなぁ〜。早速だけどお化け屋敷行くぞぉ!!」
そう叫んで私たちの間に入ってきたのは千尋くん。
まずはお化け屋敷みたいです☆
『二人一組な!!』と言った千尋くんを恨みたい。
だって....
「......。」
奏くんと二人組になっちゃったんだもん!!
あー私のくじ運のなさ恨むわ〜。
そうこの組はなぜか千尋くんが用意してた割り箸のくじで決まった。
.....チラッ
私の一歩前を歩く奏くん。
おっおう。
後ろ姿だけでも不機嫌さが伝わってくるぜ....。
正直、奏くんが一番苦手。
理由はただ一つ!!
怖い。
お化け屋敷よりも奏くんの方が怖いです☆
「あっそう言えばさ....」
「話しかけんな。殺すぞ。」
ヒィィィィッ
この子は口を開いたら殺す、殺す!!
もう、いつ殺されるかわかんないよ!!
......が私はめげない。
ひびりながらも話を続ける。
「バク転すごかったね!!感動した!!」
「......。」
「歌もダンスも上手だし。まっ人一倍努力してるから当然だよね!!」
「え?」
黙っていた奏くんが声を漏らす。
あれ?私なんか変なこと言った?
「なんで俺が人一倍努力してるってわかんの?」
奏くんの低い声。
声だけだから感情を読み取れない。
てか、初めて会話成立したかも。
奏くんと。
「ダンスとか見てたらわかるし、そもそも夜、一人でよく家抜け出してるじゃん?それって練習でしょ?」
「.....。」
私の答えを聞いて黙る奏くん。
どっどうしよう。
気まずい。
「よく見てんだな。」
前から奏くんの声が聞こえた。
「腹減ったぁ〜!!美紀!!お弁当!!」
「はいは〜い!!」
私は祐希くんに急かされてお弁当を風呂敷から出す。
今日はみんなの分を一緒にしたからね!!
重箱よ!!
「うまっ!!俺、美紀の卵焼き好き!!」
卵焼きを美味しそうにほうばっている祐希くん。
あぁ、こんな顔で食べてもらえるなんて幸せ!!
「幸せそうだね。美紀ちゃん。」
「へ?」
雪斗くんが食べているのはおにぎり。
「私そんなに顔に出てる?」
「うん。」
おーう。
顔に出てるのかぁ〜。
まっいいけどね!!
カチンッ
「あれぇ?これ僕の唐揚げなんですけどぉ?」
「は!!?俺のだし!!」
「唐揚げ全部食べたのは誰?少しは周りのことを考えなよ?」
「っ!!うるせー!!」
お箸を使って数々の戦いを繰り広げている翔太くんと千尋くん。
微笑ましい光景だ。
「あっ、タコさんおいしー?」
私が声をかけたのは奏くん。
タコさんウインナーを食べていた。
「お前の料理は基本美味しい。」