アイドルたちの裏の顔!!?



キッチンで忙しく動く私の手。


「みんな、私翔太くんの所に行ってくるから食べてて。」


大きな机の上に置いてある野菜炒めと味噌汁。


急いでたから簡単なものしか作れなかった。


私は足早にリビングを出て二階に向かう。


そして翔太くんの部屋の前へ。


「お粥持って来たよ?」


ガチャッ


さっき入ったときも思ったけど翔太くんの部屋は意外と片付いている。


部屋の奥にあるベッドで眠る翔太くん。


「熱、計った?」


私はベッドの横にある小さな机の上にお粥を置くとベッドの側に座る。


「うん。」


「何度?」


「39度。」


翔太くんの口から衝撃の温度が発表されてびっくりする私。


こらゃ、参った。


「よくそんなので仕事出来るよね....。」


私だったらそくダウンだ。


「仕事は遊びじゃないから。」


そう呟く翔太くんの表情がやけに真剣で何も言えなくなる。












「あのさ....。」


「何?」


「翔太くんの家のことなんだけど....。」


ためらいがちに翔太くんに話を切り出す私。


触れてはいけないなのわかってる。

でも、見てみぬ振りをしても何も解決しない。


「あぁ、もしかして電話来た?」


翔太くんの辛そうな顔。


あぁ、やっぱり触れてはいけないんだ。


「私、翔太くんの力になりたい。」


「.....。」


「辛いかもしれないけど話して?翔太くんのこと。話せば楽になるよ。」


翔太くんの手を掴み握る私。



お願い伝わって。

私の想い。











「楽になる?本当に楽になるの?」


翔太くんの表情は本当に辛そうで....


「うん。一人で悩まないで?」


強く。

強く翔太くんの手を握る。


「......、あのね。」


私の台詞を聞いてためらいがちに翔太くんは喋り出した。











side翔太






お母様に僕は嫌われていた。






「翔太様、次はヴァイオリンのお稽古でございます。」


「今、行きます。」


僕に次の稽古を教えてくれたメイドににっこりと笑顔を浮かべる僕。


四歳の僕はすでに嘘笑いを浮かべることが出来ていた。


僕の家は日本有数の財閥。

西川財閥。


大きな家にたくさんの使用人。

忙しくてなかなか家にいないお父様。


僕のことが嫌いなお母様。










西川家の一人息子。


それが僕。


「....アンタ。」


「こんにちは。お母様。」


僕の前に現れたのはお母様。


僕を見て顔を歪めるお母様ににっこりと微笑む僕。


もう、お母様には飛び付かなかった。


幼い僕はお母様が大好きだった。

お母様にもなかなか会えないけど、こうやって廊下で会えばいつも抱きついていた。


でも抱きつく度に僕はお母様に吹っ飛ばされていた。


『近寄るな!!』


と叫ばれて。








それでもお母様が大好きだった。


だから笑った。

たくさんの習い事だってこなした。


お母様に愛されたくて。


「アンタなんか嫌いよ!!アンタなんか!!」


お母様が大きく手をあげる。


バシンッ


「......っ。」


お母様に殴られて倒れる僕。


僕を殴ったお母様は倒れた僕を睨むとささっとその場を離れる。


「翔太様....。」


そんな僕を哀れむような瞳で見る使用人たち。


使用人たちはいつも見ているだけ。

助けてなんてくれない。


声すらかけない。


お母様がみんな怖いんだ。


みんな。


それでもよかった。

助けなんていらなかった。


僕はかわいそうじゃないから。

お母様はひどくないから。


だから大丈夫だって笑うんだ。


僕は大丈夫だって。


お母様は何も悪くないって。









小学校高学年くらいになると僕は自分の使い方を覚えた。


「翔太様は何がお好みで?」


「う〜ん、イチゴとか好きだよ?」


可愛く笑う僕を見て騒ぐ女子。


西川家の長男、西川 翔太はどこへ行っても人気者だった。


愛想のよさ、礼儀正しさ、家柄のよさ、全てが完璧だった僕に寄り付く女子はたくさんいた。


自分の容姿が可愛いことを知っていた僕は可愛く可愛く女子に笑う。


生徒からの受けがよくなる→親に僕のことを言う→西川財閥の評判がよくなる→お母様が喜ぶ。


お母様に吹っ飛ばされることはなくなった。


その代わり、全く会わないし、会っても目を合わせてくれない。

完全に僕を無視する。


それでもお母様のことを思って行動していた。








ちょうどこの頃、僕はお父様の愛人の子どもだと言うことを知った。


お母様は子どもを産める体質ではなく、跡取りがいなくて困っていた西川家。


そんなときに産まれたお父様の愛人の子ども。


それが僕。


この事実は噂をしてきる使用人たちから聞いた。


初めは辛かった。

苦しかった。


でも、笑わなきゃ。


僕は大丈夫だから。


泣いてたって誰も助けてくれないのだから。








中学1年生の春、僕に弟ができた。


「....おはようございます。」


礼儀正しく挨拶する僕の前にはお母様とお母様に優しく抱かれた赤ちゃん。


初めて自分は愛されていないと気づいた。

赤ちゃんを抱くお母様が余りにも優しくて初めて愛情を知った。


僕に向けられたものではないけれど。


お母様は僕を見る度にこうやって顔を歪ませる。


そして僕なんて存在しないもののように扱う。


使用人たちの僕を哀れむ視線。


そんな目で見ないで。

僕はかわいそうなんかじゃない。


そう思う度に笑う。

貼り付いたような笑顔を浮かべて。