「どう言うことだよ?」
「っ。」
私の後ろに立つのは顔をすごい勢いで歪めている千尋くん。
どこまで聞いていたの?
私はどうしていいかわからずにただ黙って千尋くんを見つめる。
ガチャッ
「今の話本当なのかよ!!?」
勢いよく扉を開いて部屋に入る千尋くん。
「千尋ちゃん....。」
吉佳さんは気まずそうに顔を歪める。
そして....
「ごめんね。」
寂しそうに辛そうにそう告げる吉佳さん。
あぁ、ダメだ。
このままじゃぁ....。
「なんだよ、それ。吉佳さんは母さんじゃねーのかよ?」
「....っ。」
何とも言えない表情を浮かべる二人。
吉佳さんは何も言わない。
「母さんは母さんじゃねーのかよ!!」
千尋くんはそう叫ぶと部屋を出る。
「千尋くん!!」
私は走る千尋くんを追いかけて走り出した。
ここは屋上。
顔にタオルをかけてそこに寝そべる千尋くん。
「なんだよ?ついて来んなよ。」
強がる言葉に弱さが滲む。
強がりで意地っ張り。
知ってるよ。
次は....
「俺に「干渉するな。」
私は千尋くんの台詞に被せて喋る。
「始めのころ、よくそう言われていたよね?」
「....。」
黙る千尋くんは何を思っているのだろう。
寝そべる千尋くんの横に腰を下ろす私。
「曲がってる。」
「うっせ。」
私の台詞に弱々しく返す千尋くん。
もう....
「強がるのやめれば?てか、やめなさい。」
「....強がってねーとやってけねーよ。」
ぶっきらぼうにそう答える千尋くんをただ見つめる私。
「....俺の家族は吉佳さんだけなんだ。なのに。」
千尋くんは弱々しい声で自分の気持ちを語り出した。
綺麗なお母さん。
初めはお母さんと呼んでいたのかもしれない。
でも祐希たちがうちに住むようになっていつの間にか吉佳さんと呼んでいた。
吉佳さんは有名な某芸能事務所の社長。
いつも吉佳さんと一緒に好奇の目にさらされていた。
家政婦はいつも俺らや吉佳さんに媚を売る。
うざくて仕方ない。
誰かを信じれば漬け込まれて騙される。
だから誰も信じない。
吉佳さん以外、誰も。
俺が中3の時だった。
「アイドルをやりましょう。」
吉佳さんは俺たちの前でニコニコ微笑んでそう言った。
理由は、祐希たちを捨てた親や親戚を見返すためだった。
みんなの意見はもちろん賛成。
見返したい、会いたい、見つけて欲しい。
みんなの気持ちが顔に浮かぶ。
俺はあんまり関係ないんだけどなぁ。
俺の家族は吉佳さん一人だ。
アイドルなんかになったらまた薄汚い大人に絡まれる機会が増えて逆に嫌だ。
だけど俺の親は吉佳さんじゃなかった。
一番信じてた人に裏切られた。
胸が張り裂けそうに痛い。
信じてたのに。
Side美紀
「俺は裏切られたんだ。」
千尋くんは辛そうに顔を下に向ける。
自然に私の体が動く。
ギュッ
強がる千尋くんを抱き締める私。
千尋くんは黙って私の体に体を預ける。
「裏切られたって決めつけるのはまだ早いんじゃない?吉佳さんの話をちゃんと聞こう?」
私の視界に心配そうに千尋くんを見つめる吉佳さんが入る。
息が荒い吉佳さん。
「家族に血のつながりとか関係ないよ。」
だって吉佳さんのあの目。
あれは優しい目だよ。
誰かを愛する目。
私が向けられたことのない目。
「......わかってる。吉佳さんは俺を愛してくれている。わかってるけど.....。」
弱々しい千尋くんの声は続ける。
「吉佳さんは俺なんて要らないんじゃないかと思った。アイツらに簡単に俺をあげちゃうんじゃないかと.......、」
「違う。」
吉佳さんの声が聞こえる。
千尋くんは黙って腕に力を入れる。
「千尋ちゃんは絶対に渡さない。だって血が繋がっていなくても私の子どもだもの。」
公園で拾った子ども。
名前は千尋。
婚約した彼が死んだ数日後、千尋ちゃんを拾った。
ZEROを作ったのはあの子たちのためだったけど一番はやっぱり千尋ちゃんで。
千尋ちゃんの親を見つけて言ってやりたかった。
ぶってやりかった。
「なんで千尋ちゃんを捨てたのって。」
吉佳さんは泣きながら全てを話す。
「.....吉佳さん。」
私から離れて吉佳さんに近寄る千尋くん。
泣いている吉佳さんを優しく抱き締める千尋くん。
血なんて繋がっていなくてもいいんだよ。
それでも家族なのだから。
二人の愛が痛いほど伝わる。
私は一人で二人をただ見つめていた。