小鞠が薄く目を開くと、すぐそこに白い手があった。
顔を上げ、仰ぎ見る。
「覚えておるか?
そなたが助けを求める時あらば、妾が力になろうと言った事。
妾は約束は違えぬ。
小鞠、この手を取るか?」
化け物に成り果てた自分に手を差し伸べる美しい人は、微笑んでいた。
優しく、穏やかに、聖母のように。
あの日のままに…
小鞠は自分のものではなくなった手で、自分のものではなくなった目の涙を拭った。
もう片方の手をおずおずと伸ばし、目の前で待つ白い手にそっと重ねる。
その途端、うさぎの足下から風が巻き上がった。
髪を、着物の裾を、袂を翻らせ、狂ったように吹き荒れる黒い風。
突風から逃れようとする小鞠の手が、驚くほど強い力で握られた。
「痛ぅっ! うさ…
っ??!!」