その頃キッチンでは、風燕が柘榴の実を丁寧に取っていく横で、蓮流が福寿草を丁寧に洗って葉と茎に分けていく。禮漸は蓮流と風燕が下処理をした柘榴と福寿草の葉を少しずつ酒の入った塩水と混ぜながらすりつぶしていく。

「こっちでも福寿草が生えてたんだな。」

禮漸が作業をしながら風燕に話しかけた。
なぜ禮漸がそれを聞いたかというと、福寿草は、妖怪達の世界で解毒剤としてよく用いられる植物であるが、主にあやかしの森に生息している植物だからだ。

「裏山の祠の近くに少しだけ生えてるんだ。」
「ほ~、珍しい。」
「この前、山に行った時見つけた。ほんの少しだけ生えてた。」
「そっか。じゃ、こすからざるとボウル用意して。」

禮漸は、それ以上に何も聞かず、布がかかったざるの中にざばっと薬湯の元を移す。禮漸は移し終わると、布を巾着のようにきゅっと先を持ち上げるとぎゅーっと絞っていく。すると、ボウルの中には濃い緑色と柘榴の深い赤が混ざり不思議な色を醸し出している・・・。

「よし、出来た。」
「カフェオレボウルのほうがいいかな?」

そういいながら、蓮流が食器棚から薄茶色のカフェオレボウルを出してきた。

「結構沢山飲んでもらうから、それのほうが早く飲ませることが出来るかもしれない。」
「そうだな、それで行こう。」

カフェオレボウルの8分目ぐらいまで薬湯を入れると、風燕がそれを持って椿の部屋に向かう。その後ろから禮漸と蓮流が、薬湯の入ったボウルやお玉を持って風燕のあとに続いて椿の部屋に向かっていった・・・。