「社内で凄い有名だよ?
三嶋部長がふられたー、って」
他にもいろいろ出回ってるしね。
グラスをあおりながらさらっといわれた内容を聞いて、私は心から休暇を明日からにしてよかった、と思った。
「……別に、部長に怒ってるわけじゃないの」
視線で促されて、ゆらゆらと揺れるグラスをみながら事のあらましを話し出す。
「今日の朝だったかな……
後輩達が噂してるのを聞いて」
三嶋部長が異動で上職を任されたらしい。
「部長は全然そんな事言ってなかったから」
でも野村さんに聞いたら、それは本当の事だった。
しかも今さっききまった事ではなく、本人に知らされたのは二週間とかそれくらい前。
…………私に伝える時間は充分あった。
「確かに最近家にいる時も、なんかおかしいな、って思うことはあったの」
でも私は、それ以上気づけなかった。
「…………腹がたった」
気づけなかった自分に。
何かあったのか聞かなかった自分に。
────彼が伝えるのを迷ってしまうような、自分に。
「…………、悔しかったっ」
それから何とかスケジュールを調整し、部長に休暇の届けを出して、仕事が手につかないから帰ろうとして、今に戻る。