コンコン────────…


「元帥」


外側からノックされて声が聞こえたドアに、室内の皆の視線が向く。


「オルビスか。後にしろ」


「それが急ぎでして」


お父様が「どうぞ」と元帥様に示すと、元帥様がしぶしぶ「入れ」と言う。


はやく帰りたいんだけど。


だいたい早いのよ、結婚なんて。


まだ男性と正式にお付き合いだってしたことないのに。

パーティーで男性と踊ったことすらないのに。


「失礼します」


入ってきたのは綺麗な青年だった。


吸い込まれそうな漆黒の髪。

ヘーゼルとグレーの中間の色をした瞳。

長く多い睫毛。

すっとした鼻。

綺麗な顎のライン。