あたし、もしかして殴られちゃうんじゃ…いや、治療代払えとか…!?
はたまた体を売り飛ばされたり!?
なんかチャラそうな人だったし、そうなってもおかしくないような。
そんな妄想を繰り広げて、あたしの地面を見つめる瞳がウルウルと涙で滲む。
沈黙に耐えきれなくなって、顔をあげてみると、一瞬男の人が目を見開いてこちらを見つめる。
「…あぁ、全然いいよ」
あたしの顔を見た途端、コロッと態度が変わった。
不機嫌そうだった顔も、すっかり笑顔を浮かべている。
「あ、あの、お怪我とかありませんか…?」
あたしがおずおずとしながら言うと、男の人がふわりと笑う。
わ、綺麗…
かっこいいっていうか、かっこいいんだろうけど…こんな整った顔の笑顔を間近で見たことがないから、少し緊張してしまう。
「いや、大丈夫。
それより、急いでんでしょ。行きなよ」
ぶっきらぼうそうに言うけど、言葉は優しくてチャラそうと思ってしまった自分に後悔する。
いい人そう。モテるんだろうな。なんて直感的に思った。
「す、すみませんっ、じゃあ!」
深々とおじぎをして回れ右をする。
今度は、ちゃんと前を見て走らなきゃ。
そんなことを考えてたあたしは、あのときあんな会話がされてるとは思いもしなかった。
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