『ねえ、聞いた?奈々香と拓也くんようやく付き合うことになったらしいよ。』


「あーなんか言ってたな…」


『あの二人好き合ってたのにいつまで経っても告白しないからもどかしかったんだよね!』


「…まぁ、色々あんだろ…」


『………』



私のクラスメートの奈々香が幼なじみの拓也くんと結ばれて数日。


久しぶりに彼氏の佐藤尚の家に遊びに来たかと思えばこの調子。


私、武井愛里もさすがにブチ切れ寸前。


私達は付き合い始めてもうすぐ1年経つ。ここへきて倦怠期なるものになりつつある。


最初はちょっとしたことで照れたり、恥ずかしかったりしたのに…今じゃ雰囲気なんてあったもんじゃない。



『尚…最近冷たくない?』


「…はぁ…?」


『だって私が話し掛けてもそっけない返事しかしてくれないし…その、最近…キスとかも少ないし…』


「…………気のせいだろ。」


『違う!絶対冷たいもん!ねぇ…私のこと嫌いになっちゃったの?飽きちゃったの…?』



気付けば尚の部屋のカーペットに私の涙が滲んでいた。


ポタポタと染みを作るそこを見つめながら私は声も出なくなってしまった。



「はぁ…これ言いたくはなかったけど…仕方ねぇな。」



仕方ないって、何?


もう別れるってこと?これから別れ話でもする気?



「俺さ…実はお前に内緒でバイトしてたんだよ。」


『……………は?』


「それで1週間後に間に合うように超過密スケジュールにしすぎた。でもってめっちゃ疲れてた。」


『え、バイト?え?』



は、話に着いていけないんですが……



「バレたからには仕方ないな。……ほら、これやるよ。」


『え…』



尚が取り出したのは長方形の箱。


それを開けてみると中に入っていたのはハートをかたどったネックレスだった。



「お前欲しがってたよな?結構探すの大変だったんだぞ。」


『な、お………』



探すのだけじゃない。きっと買うのだって大変なはず。


だって私がいくらお小遣い貯めたって無理だって雑誌見ながら諦めてたやつだもん…。



「ほら、もう泣くなよ…記念日に渡せなくてごめんな?」


『尚っ尚っ…私の方こそごめん…』


「俺はさ、いつまで経ってもお前しか見えてないから。」


『うん。』



久しぶりに抱きしめられた温もりは驚くほど温かかった。





“サプライズで涙の跡は消えた”





20120930





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