ただでさえ集中力の欠ける五限目の古文。

初老の国語教師の子守唄のような徒然草を聞き流しつつ、

僕はいつもの癖で窓に目を向ける。



眩しいような青色と迫力の積乱雲、

を切り取る窓枠と、

窓の外を見るクラスメイト。



まるでそこに有るのが当然のような、

どれか一つ欠けることも許されないような完璧な調和。

先月まであの席には僕が座っていた訳だけど、

当たり前だがその時はこの光景は存在していなかった。

もちろんその前も、

そのまた前も。


僕は窓から暇つぶしに校庭を眺める権利を失ったが

代わりにこの素晴らしい光景を眺める権利を得た。


優越感に少し頬の筋肉が緩んだ。

ふいに視界が遮られる。

白いワイシャツに特徴のない柄のネクタイ。

「......百十二ページ」

押し殺した笑い声がちらほら聞こえてくる。

周囲のざわつきに気がついた彼女も一瞬こちらを振り向いたが、

すぐに視線を戻した。

ああ、いいさ。馬鹿にするがいい。

でもこの景色だけは僕のものだ。


僕は重大な秘密を握るスパイのような高揚感を隠しつつ

教科書をめくった。