ー初時雨が僕の肩を、髪を、頬を濡らす。愛しい恋人の墓前に山茶花や柊、八手の花、石蕗の花を置いた。彼女が好きな冬の花だった。
「ああ・・・今年もまた冬が来たよ・・・美冬」
「思い出すよ・・・君と出会った時のことを・・・」ー

ー6年前ー
(はぁはぁ・・・)
「利久さまーー!利久さまー!」
「まったく・・・どこにいったのでしょうか・・・」
(なんとか人混みに紛れることができたか・・・)
しばらく走っていなかったせいか、酷く息苦しい。なんとか使用人ちたを撒いた利久は呼吸を整えるために暫くじっと立っていた。
こうやってゆっくりと街並みを見るのは久しぶりだ。いつの間にこんなにも変わってしまったのだろうか。

気づいたら、雪が降ってきた。雪がこんなに綺麗だと思ったのはいつぶりだろうか。
「大丈夫ですか・・・?」
「え・・・?」
そこに立っていたのは、綺麗な整った顔立ちをした女性だった。優しそうな印象をもった彼女に、僕は一瞬で心を奪われた。
「傘、どうぞ?」
「ありがとう。遠慮なく貸してもらうよ」「あ
ら、着物が濡れてらっしゃるわ」
「本当だ」
「このままではお風邪を召してしまうわ。よかったら、私の家へおいでくださいな。」
彼女は優しい笑みを見せると、手を差し伸べてきた。その手をとり、僕たちは彼女の家へと向かった。
その出会いの日から、僕は彼女の家へ度々赴いていた。
彼女・・・美冬は、幼い頃から体が弱く、よく風邪を患っていた。おまけに、両親を幼い頃に亡くし、今住んでいるのは、主の美冬と、使用人数人だけだった。
「君は、こんな広い家に1人でいて寂しくないのかい?」
「いいえ、寂しくなんかありませんよ。だって、利久さま、貴方が毎日会いに来てくださるもの・・・」
そう言うと、美冬は微笑んだ。
「ねえ、利久さま」
美冬が利久に聞いてきた。
「私・・・貴方を幸せにできてるかしら・・・?」
「突然、なにを言い出すんだ、美冬?」
「いいえ、なんでもないの。・・・ただ、聞いてみたかっただけです・・・」
僕は君の傍にいるだけで幸せだよ、そう言うと、美冬は心底嬉しそうに微笑んだ。だがしかし、彼女がいきなりどうしてそんなことを言い出したのか、理解することは到底難しくて、その時の僕には美冬のその言葉が意味することをわからなかった。