「まだ、無意識なんでしょうけど」


 婦人が言った。


「あなたには、何かの力があるのは間違いない。でもそれが、どういう力なのかは分からないけどきっと、何年も、何百年も保たれてきた私達の均衡をあなたは崩してくれる。そんな気がするの」


 耳を塞ぐ。
 婦人の言葉が胸に突き刺さる。
 聞きたくない。


「だからあなたは、“切り札”」
「・・・え?」


 思いもしなかった言葉に、美樹は顔を上げる。


「もうずいぶん長い間・・・争う事を続けてきたわ」


 婦人はそう言って、窓の外を見た。
 風はおさまる気配を見せない。
 今頃、みんなは・・・。


「だけどもう、限界が近づいてる・・・私達も向こうも」


 言葉の意味が分からず、美樹は不思議そうに婦人を見つめる。


「これからどうなるかまだ分からないけれど、私たちはあなたに賭けてみたいの」
「本当にわたし、何もできないんです」


 頭の中がぐちゃぐちゃで、何て言っていいのかわからない。