私がまだ小学五年生だった頃、一人の男の子が転校してきた。とてもきれいな顔立ちだった。その男の子の名前は、武田瞬。
彼は教卓で、
「武田瞬です。よろしくお願いします。」
と小さな声で転校生の鉄板である一文を言って、私の前の席に座った。
次の日の朝、家を出ると偶然転校生に会った。
「おはよー」
と言うと彼はびっくりした様子で
「知ってるの？」
と言った。
「同じクラスで、後ろの席だもん！私、木村悠衣。あなたは武田君だよね？」
と言うと彼はこくこくと頭を縦に振った。
私は普段はお喋りな方ではないのになぜか武田君には話さなくてはならないような義務のようなものを感じていた。
そのときの私は転校生だから自分から喋らないといけないと思っていたのだろう。
でも今思えばそのときからもう私は彼に惹かれていたのかも知れない。

私は小五ながらに恋をした。でも武田君はとても人気があって遠い存在になっていった。
恋をしたといってもこれといって毎日喋るわけでもなく、登校のときに偶然会ったら話すというだけだった。
告白はしないと決めていた。私が好きと言っても断られるのは分かっていたし、ただでさえ仲良くもないのにもっと気まずくなるかと思うと、告白なんてしなくていいと思えたから。
でもある日、私にとって考えられないようなことが起こった。忘れもしない十二月八日のことだった。