ゼータは、簡素な自分の部屋のベットに座って、なにか走り書きを見つめていた。

洋服(デザインはいくつかにすること)
下着
パジャマ
日用品もろもろ

このメモは、先程の話にも出てきた、マリアー…この組織の、由美香意外の唯一の女性にもらった、
「とりあえずすぐ入り用の物リスト」
である。

これを買いに、行かなければいけないのだ。なるほど、とゼータが1人でうなづくと、コンコン、とノックがした後
ドアが空いた。

「にゃー!」
そして飛んでくる小さい栗色は、ゼータの脚に抱きついて会いたかったよ!とでも言うようにじゃれつく。
「あら、あんたなんか懐かれてるのね」
由美香は笑いを堪えながら部屋へ入ってくる。
「ああ、小綺麗になったな。」
「大変だったんだから。もうあんたの依頼は受けないわよ。」
何時間か前に見たときよりも、由美香は確実に老けて見えた。
なんていうか、年相応という言葉を体現したような感じで。

だが自慢げにどーよ、綺麗になったでしょ。っと笑った。
コニーは上機嫌だ。
なんだかよくわからないけれど、この黒い、大きな「ひと」は、
あの変な男に痛い事をされていた場所からだしてくれた。
なんにも痛い事をしてないのに、私を撫でてくれた。
暖かい物にいれてくれて、身体中がべたべたしていたのを直してくれた。(それは、こっちのちいさな人だけど。)

コニーの小さな頭では、なんだかゼータはとっても良い人だ。
実際のところ、ゼータは殺しをして、依頼がうまくいかないからといって屋敷を焼こうとしたけれど
面倒くさがって居たところを、都合よくあらわれたコニーが思わず役にたって、
気まぐれを起こして連れ出したが、自分の勝手な美学に反するから、という理由で風呂にいれたまでである。
なんていうか、ゼータ中心で動いているだけだ。

それでも、コニーはこの男をかみさまか何かのように思い始めていた。

だって、だって。

この人は、私に痛い事をしない。

ゼータは、なんでこんなに自分になついたのかよくわからないコニーをさっと抱き上げた。
「買い物に行くぞ、」
「にゃー?」
なにそれ?とでも言うようにこてんっ、と顔をたおしたコニーを落っこちないように持ち直すと、ゼータは財布を引っつかんだ。
由美香は焦る。
「待ちなさいよ!あんた、そのいつもの黒づくめでいくつもり?!」
「服はこれくらいしかない。おれは良い質の物を長く使うからな。」
クローゼットには、同じ物しか入ってはいない。

眩暈を起こしそうだー…

一見、いや、十中八九ゼータは犯罪者なのだが、それがあまりにも顔に出ている。
びっくりするほど、コニーが攫われているように見えるのだ。
とても、優しいパパとかわいい娘には見えない。
まんま、犯罪者と可哀想な子供だ。


「あんたせめて他の服をー…!!!」
しまった。



ゼータは、ひとり眩暈を起こしていた由美香をほっぽって、
さっそうと街に去った後だった……。