コニーは不思議だった。
自分にとって、このあたたかいものが出る場所は、
今までこんなに安らかな気持ちになるところではなかった。

目の前の、髪の長い人間を、じっとみつめた…。


「うわ、あんた身体から泥水でるわよ。」
汚れてるとは思ったが、予想以上だ。
洗ったあとからあとから、泡が黒くなる。
「にゃーー」
気持ちよさそうに、コニーは目をつむっている。
これは由美香には知りようもなかったが、コニーは最近少し放置されていた。
ご飯を求めて、ろくな掃除もされないそこかしこに潜り込んだため、コニーの体は汚れてしまっていた。


心なしか、血色が良くなった気がする。これなら、ゼータに文句なんて言われないだろ。そう少し自慢げに由美香はコニーの髪を洗った。

明るい、栗色の髪。
からみに絡まったそれは、由美香を戦慄させた。
「おもったより、面倒な感じね」
今回の依頼は、以外に面倒なものらしい。


米米米米米米米米米米米米


ぶぁああああー
「みゃっ」
「大丈夫。これからでんのは風だけよ」
始めて見たのだろう。ドライヤーにびびるコニーの髪を、乾かしていく。
「それにしたって」
この子供、クマさえあるがかなりの美人だ。
明るい栗色の髪はさらさらと細く流れるし、蜂蜜色の目は、ハニィブラウンなんかじゃなくて本当の蜂蜜色。
痩せているが、唇はかわいい桜色。
まつ毛もふぁさふぁさだ。
こりゃー変態にも気に入られるわね。





だからゼータにも気に入られたのかしら。



失礼な事を考えながら、由美香は自分の寝巻きのシャツをきせる。
「にゃー、にゃー、」
にこにこと、コニーは由美香の膝に擦り寄る。まるで嬉しい!というように、ぺろり、と由美香の頬を舐めた。
「あんた、そゆときは違うわ。アリガトー、って言うのよ。アリガトー」


「真似しなさい、アリガトー」
唇を指差しながら、アリガトーと繰り返す。
「あ、あ、」
「そうそう。アリガトー」
「あり、あ、とっ」
「いんじゃない?」


子供を愛でる趣味はないが、カルガモの子供が必死に後を追ってくる、そんな可愛らしさを感じる。それに、この子くらいなら……


ぼんやりと考え事をしていた由美香を、現実に引っ張り戻したのは、
風呂に浮いたアヒルを取ろうと足を滑らせて、浴槽に勢いよくダイヴしたコニーだった…