由美香は驚愕した。

殺し屋仲間、いや、仲間というには仲間意識はかなり薄いが、
ゼータという男とは長い付き合いだった。
由美香もまた、世間様には言えない仕事をしている。

ゼータや由美香が属するファミリーは、協定関係にある。
お互いが優秀な殺し屋、または情報屋だと知っているからこそ、無駄な争いを防ぐためにフリーの殺し屋たちが協定関係を結んだ。
名前は烏。
仲間意識は薄い。協力したりする事もあるが、それは利害が一致したときのみだ。
自分達の煩わしさを減らすため。
そのためだけに協定関係にあるだけ。

だが、やはりお互いの性格はなんとなくわかってくる。
ゼータと言う、殺しの才能があるから殺しを職業にした、という変わり者の男の事も、少しはわかっているつもりだ。
黒猫を拾ってきて、レディと呼んでそれはそれは可愛がったりだとか、自分の美学があり、それは酷く偏った内容であるとか、
女性はしたたかで、淑女であるべき、とか、
とにかく変わり者で人相の悪い男だと言う事とか。

でも、まさかアジトに拾ってきたものが人間だとは思わなかった。

「保護先がみつかるまで」
らしいが、あまりに軽すぎる。
殺し屋だろう、お前は!子供を保護するような、奴じゃないだろ!


一応日本の生まれの由美香は、カルチャーショックかしら、と思ったがすぐに思い直した。
ちがうわ、この男が変なんだわ。

「ユミカ、このぐらいの子供にはなにをしたらいいんだ」
部屋の扉を開けると、それはそれはきちゃない子供をかかえた人相の悪いデカイ男。
「バカなの!?犬じゃないのよ!人間じゃない!なに拾って来てるのよ!あとすっごく臭い!あんた仕事帰りね!?」
由美香は一気にまくし立てると、はぁとため息をついた。
「こいつに助けられたんだ。俺の完璧な仕事を手伝ってくれた。」
「どう言う事よ…どうしたら良いのかもわからないくせに!あと臭い!イカくさい
!!!…まさか、あんた」
「馬鹿か、俺じゃない。性奴隷とやららしいぞこの子供。」
「だから、マリアにでも頼みなさいよ!なんであたしにどうしたらいいか聴くのよ!」
「マリアが、お前が適任だと。しばらくこいつを飼っていいと言った」
「ああ、…………もう!!、」


由美香はぎろりと抱えられた子供を睨む。
びくりと身体を動かした子供は、それでもきらきらした蜂蜜色の瞳で見つめてくる。
「あんたの持ってるナイフちょーだいね、あの 金色のやつ。」
「なんで「この子供。なんとかしたいんでしょ。」

ゼータはだまりこむ。

相変わらず頭の中は忙しく回っていた。
なんで俺がここまでしなきゃならん。
いや、でも、俺が拾うと決めたのだ。
俺が決めた事なら、仕方ない。
たった何時間か前とはいえ、俺が決めたのだ。
時がくるまでこいつを預かろうと。
ならば、淑女であるよう教えなければならない。
ユミカに報酬を払うのは俺でなければならない。


「わかった」

ポケットから、赤い宝石がうまった金色のナイフをとりだすと、由美香に投げてよこす。
「頼む。名前はコニーらしい。言葉はわからん。
名前は反応するし、わりと普通だ。」


由美香はわかった、と言ってじゃあ来なさい、とコニーの手を引く。
わりと素直にコニーはついて来た。

…小さい。
骨格はまぁまぁ、12歳くらいなのに肉付きが悪すぎる。
骨をつかんでいるようだ。
栗色の髪はうす汚れてもちゃもちゃだし、はだも黒ずんでいる。
取り敢えずお風呂だわ、これ。

由美香は浴槽にお湯をため、金に物を言わせて、イタリア人にむりやり作らせた
自慢の日本風の風呂場にコニーをいれた。
コニーは風呂、というものは知っているようで、きょろきょろはしたが暴れたり泣いたりはしない。
いや、泣かないだろうな。そういう教育をされているだろう。
たとえ無理矢理犯されても、叫んだりわめいたりしないだろう。

そこで、由美香は違和感に気が付いて目線を落とす。

コニーがカチャカチャと、由美香のベルトを外しているのだ。
「…あんたなにして………ああ、」
合点がいった由美香は、コニーの手を止めさせる。
「ここでは、んな事しなくていーのよ、」
きょとんとしたコニーはしばらくぱちぱちと瞬きを繰り返す。

「よし、あんたの事を綺麗にしなきゃね、」
刺青のはいった腕を捲り上げ、由美香は浴槽にコニーをぶちこんだのだった。