寂れた孤児院の中、シスターと向き合うゼータは苛々としていた。
それは、孤児院の状況にあった。

少女を連れて孤児院にやってきたゼータだったが、
そこにあったのは一軒のボロ屋だった。
孤児院なんて慈善事業だ、こんなもんさと思いながら孤児院へ入ると、
一人の少年が里親に出るところであった。
ゼータは里親の顔を見て、さっと視線を背けた。ボロを着た少年の手を引く男に見憶えがある。

「……………(人買いか)」

孤児院の園長とやらも目が悪い。あのガキ、このあと奴隷になるな。
そのとき、自分の服が引っ張られるのを感じて、腕の中をみる。
少女は、ゼータが着せた申し訳程度の布を煩わしそうにしながらも、必死にゼータの腕の中に収まろうとじたばたしていた。
いやいやとするように、男の目から逃れようとする。
…こいつ、もしや。
そこで、女の叫び声がする。


「コニー!!!?」


冒頭に、戻る。

ゼータの予想通り、少女…コニーと言うらしい。
コニーは、元々この孤児院に居たらしい。そこを、地主のエバン-ミックマンに買われた。孤児院のシスターいわく、とっても善良的なお金持ちに、コニーは引き取られて行ったらしい。
コニーの状態を見て、疲れ切った様子のシスターはさらに真っ青になった。
「コニーは、一体どうしたんですか?」
「ミックマンは死んだ。路頭に迷ってるところを連れてきたんだ。」
ゼータは軽い嘘をついた。
「そんな………あんなにコニーを気に入ってくださったのに………」
まあ、気に入ってたな。とっても変態的に。

ゼータは、うやむやな人間が嫌いだ。
よって、びくびくと顔色を伺い、(半分くらいはゼータの人相のせいだ)見え透いたゼータの嘘を指摘もせず、
にゃーにゃーと鳴く異常な状態となったコニーさえにもびくびくとするこの幸の薄い女に、苛々を隠せずにいた。
自分は紳士だと自負しているゼータは、もうコニーをこの孤児院に預ける気などなかった。
「コニーはこのまま連れて行く。とても余裕はなさそうだ。」
孤児院では、子供が溢れかえっていた。
跳ね回る元気もなく、十字架にもたれてぐったりしている。
これでは只の屋根の提供場でしかない。

それなら、子供のいない家の前にでも捨ててきた方がよさそうだ、
そう、俺は、快楽殺人者でも、薄情な人間でもないのだから。
自分なりの美学に酔いしれてゼータは思考を終わらせる。

問答無用。
再びコニーを抱え直すと、ゼータは立ち上がった。
その時だ。

びくびくとしていたシスターが急に立ち上がり、
がくがくしながら言葉を発し出した。

「ココ、コニーは!!!……コニーは……幸せに……?」







「……ああ」



大嘘だった。
ここよりマシなところにまた捨てるだけ。幸せになんか、なれるかなんて。

それでもなぜか、俺は「yes」の返事を返した。

俺は、悪魔じゃない。
だが、天使じゃない
快楽殺人者ではない。
だが、殺人者ではある。
俺は、薄情な人間でもない
だが、優しくもない


男の頭の中でぐるぐると回る【美学】。
それのおかげで、蜂蜜色の少女、コニーの泥の中のような人生は、たしかに救われたのである。