上品な印象を受ける、暗めの赤の絨毯
庶民には価値さえわからない調度品の数々。
そんな物たちが並ぶ廊下を、男は、歩いていた。

男の名前はゼータ。
鋭い眼光。だがその目は光を通していないかのように濁っている。
癖っ毛な肩までの黒髪をかきあげ、男はため息をつく。

「広過ぎだな、このバカ屋敷は。」

ゼータは、【依頼人】の契約通りにこの郊外にある地主の家へ潜入。
ボディーガード数名、地主本人、家族を抹消、その後地主の持つ土地の権利書を廃棄する。それが今回の依頼だ。

必要以上に村人を圧迫し、金を搾り取り、恨みを買うからこうなるんだ。
俺みたいな、殺し屋なんかに殺される。

まぁ、結果それで飯を食べている身としては文句など言えない訳であるが。

そんなことを考えていたが、はぁと小さくため息がでてくる。
それにしても、屋敷が広すぎる。
権利書を探して金庫や机、ベットの裏なんかも探しているが、一向に見つからない。
殺してる時間より、権利書を探してる時間の方が長い気さえしてくる。

家ごと、燃やしてやろうか。
どうせ取り壊すんだ、家ごと…いやでも、それは契約の中に入ってない。おれの【美しい仕事】に確実に泥を塗るようなやり方だ。気に食わない……だが見つからない……


ここは多少腑に落ちないが燃やしてしまうか……?

そんな危険なことをゼータが考えはじめたそのとき、
こと、と小さな音が聴こえた。

「まだのこってやがったか」
情報屋から買った情報では、人数分殺した気がするが。
かさかさと不用心に音を立てる方に銃を向けながら近づくと、
大きめの額縁が見えてきた。

なんだ、隠し通路か。
あそこに権利書があるかもしれない。
絵を容赦無く銃で打ち抜く。

壁の向こうでみゃあ、と小さな鳴き声が聴こえた。
「…猫?」
めりめりと木枠を外すと、裏にはぽっかりと部屋があった。

少しだけ驚き、ゼータの目は見開かれる。


子供部屋のような部屋だ。
可愛らしい小さな家具たち、青を貴重とした可愛らしい窓のない部屋。なぜかベットだけが以上に大きい。キングか。
小さな黒板があり、勉強をしたように文字が書かれている。

「…隠語か。」
黒板には、この部屋に似つかわしくないいやらしい言葉の数々が並んでいる。
悪趣味な黒板の裏に、小さくなっているものがあった。
それをひっつかんでひょいとあげると、ゼータは意外な事実に目を見開いた。

ゼータが持ち上げたのは、
「…ガキ?」


栗色の髪をごちゃごちゃにした、
にゃーとなく、小さな女の子だったのだから。