「いらっしゃいませ、左手奥の十番シアターになります」


「あ!姉ちゃん!」

「わぁ、何やってるのよぉ」

「姉ちゃんこそ」

「いやいや、見れば分かるじゃん、仕事だよ…」


お姉さんとも噛み合っていなくて、吹いてしまった。


「…すみません笑ってしまって…。」

「同じ職場なんです」

「そうなんだぁ、この映画良いよぉ!…あ、私は姉の奈々です。ごめんねぇーこんな弟でー」

「いえ、いつも楽しませてもらってます」

「いやぁ本当この子…」

「姉ちゃんーっ」

「あ、顔赤くなったー」

「お前、熱帯夜みたいに暑苦しいのな」

「ちょ、先輩まで何言ってるんすかー」

「ほらぁ早く行きなよ、後ろつっかえちゃうじゃん」

「あ、すみません、楽しんで来ます」

「はぁーい!行ってらっしゃーい!」

「行って来ます」


お姉さんの奈々さんも明るい人だった。
家でもあんな感じなのかなぁ?
そう思った時、さっきの言葉がふと浮かんだ。


熱帯夜…


ピッタリかも。
今度は誰にも気付かれないように、一人で小さく吹いた。

彼が熱帯夜なら、彼女は皆のオアシスかな。潤いを与えてくれる、必要不可欠な…そんな存在。



だけど、ボクはオアシスを失った