そういうわけじゃない。
天国へ行かせてあげて、楽にさせてあげたい気持ちは山々だ。


それでも、一緒にいられた時間はあまりにも短すぎて、突然別れを告げられても心の整理なんてつけられるわけがない。


けれど、あたしが別れを拒めば拒むほど、碧を中途半端な存在のまま、中途半端にこの世に縛り付けてしまうことになるんだ。


「……」


やっと、おとなしくなったあたしに、碧は今度は優しい笑顔を見せる。“よろしい”とでも言うように。


「……ごめんなさい」


「うん。でも、蒼唯はそこまで俺のことを想っていてくれたんだなっていうのは、すごく伝わったよ」


イタズラっぽく言う碧。
思わず頬を赤く染めるあたしを見て、楽しんでいるみたい。


「可愛いよ、蒼唯」


「もう!碧ってば!」


からかったりしないでよ。今までそんなことしなかったくせに。


もうすぐであたしの前からいなくなっちゃうくせに、こんな、恋人みたいにしてたら……。


さっき謝ったばかりなのに、また駄々をこねちゃうよ。


でも、もう碧を困らせることはしない。


また喉元まで出かかっていた“行かないで”の5文字を、ぐっと、唇を噛みながら飲み込んだ。