「オイ、聞いてんのか?」


「……。」


「悪いことはいわねぇから、綾音の家に戻れって。
俺はこのまま、自分の家に帰るから。」


「………。」



ウルサイ!!悪魔!!!!


嫌い、嫌い、大っ嫌い!!!
キョウちゃんなんて、大っ嫌い!!!!




隣で何かを話しかけるキョウちゃんを完全に無視してタクシーを探すけれど…急な雨のせいなのかどのタクシーも“乗車中”のランプが点灯している。




――はぁ、この調子じゃほんとに歩いて帰らなきゃダメかも。


半ば諦めながら、中目黒に向かって歩いていると


「オイ。聞いてんのか!?」


イラついたキョウちゃんは強引に私の右腕をグッと掴んで私を睨みつける。



「イタッ…。」


「そんな恰好で帰ったら確実に風邪ひくぞ。」


どこまでも冷たくて
どこまでも威圧感のある、キョウちゃんのその視線。




いつもなら
この視線に完全にやられて、すごすごと引き下がっていた私。





でも……
この日の私は強かった。





「風邪ひこうがひくまいが、キョウちゃんには関係ないでしょ!?」


「…はっ??」


「私はクソオンナですからご心配なく!!
いざとなったらヒッチハイクでも何でもして帰るから!!!」




フンッと思い切り彼を睨み返して身をひるがえすと、ツカツカと足早に歩いて行った。