その日の夜
私はコンビニで大量のアルコール類を買って、綾音の待つ自宅へと急いでいた。



――久しぶりだな~。綾音と飲むの。



そんなことを思いながら、綾音の住むアパートにたどり着いて、ピンポーンを押すと


「空いてるよ~!」


部屋の中からは元気のいっぱいの綾音の声が聞こえる。



ドアをガチャリと開けると、部屋の中からはブリティッシュロックの音楽と美味しそうなチキン煮込みの匂いがする。


「いいにおい!
今日はスパニッシュ??」


そう言いながらパンプスを脱いでいると…見慣れない男物のスニーカーがあるのに気づく。



――これってもしかして……




嫌な予感にさいなまれながら、そのスニーカーをじっとじっと見つめていると


「美織!どうしたの??
入っておいでよ。」


綾音はクスクス笑いながら、私を呼ぶ。






だけど……
私の体はまるで魔法にかかったように動かない。




たぶん……
ううん。これは確実にキョウちゃんのスニーカーだ。
綾音のおうちに上り込める男性なんて、綾音の彼氏以外にいないはず。


この部屋の奥にはキョウちゃんがいる。




どうしよう、どうしよう。
どうすればいい!?



私の頭は完全にパニック。
どうしたらいいのかわからない。
仕事でキョウちゃんに会ったことは何度かあるけれど、それはあくまでも仕事としてだ。


近くにはいつも父がいたし、事務所の従業員だっていた。


会話はいつも事務的なことばかりで。必要最低限のことだけ話して別れていく完全なビジネスライクとしてのおつきあい。