その言葉を聞いて、私は何も言えなくなってウッと口をつぐんでしまう。



才能あるアスリートを育て、守り、大きく羽ばたかせるのを目標に作った、この部署。





彼の活躍はあの事件以来、敢えて知ろうとも触れようともしなかったけれど、テレビで彼の名前が聞こえてきたのは一度や二度のことじゃない。キョウちゃんは…間違いなく競泳界の期待のホープだ。


そんな彼をサポートするのは、とてもやりがいのある仕事なんだろう。


「……。」


でも怖い。
キョウちゃんと関わる。それだけで怖くて怖くて泣きそうだ。




何も言えずに、ただ資料を握りしめたまま下唇を噛んでいると



「……沈黙は肯定だと受けとるぞ。」



父は私に、そう声をかける。




そして、フゥとため息を吐くと



「響弥のプロモート方法については、俺が考えるから心配するな。美織は俺の指示に従いながら、響弥をサポートしてくれればそれでいい。」



そう言って父はフッと腰を上げる。



そして兄の肩をポンと叩くと


「仁。」


「ん?なんだよ。」


「ちょっと面倒なことが起きたから、聞きたいことがあるんだけどいいか?」



「OK。」



そう言って二人は扉に向かって歩き出す。




――や、ヤダ……!!

このままだとキョウちゃんと二人きりになっちゃう!




そう思った私が、急いでその場から逃げ出そうと踵を返すと


「あ、美織は響弥にコーヒー出してあげて。」


父は空気を読まずに、こんな言葉を私にかける。