「いらっしゃいま・・・、たくみ・・・」


柚希は、一瞬ドキリとしたが
今あの時の匠の気持ちを少し理解した後だったために

政宗から連絡があった直後とは違って、静かな気持ちだった




「・・・ひさしぶり、ゆずくん、、、」



匠の表情は堅かった

いつもは年の近い弟、いや友達のように接してくる匠が
今は先ほどの男子校生より遠い存在のように身構えている



「・・・だな、ホントひさしぶり」


「・・・うん」



”どうした?”


そう言おうとして、柚希はその言葉を飲み込んだ


どうした、じゃない

そんな白々しい会話をしに匠だってここに来たわけじゃないとわかっている


匠は”真剣”なんだ


だから俺も、”真剣”に匠と向き合って話さなければいけない



「・・・片田、李生さんのことだろ?」


柚希はすぐに切り出した

匠の方が少し驚いた顔を見せて、だがすぐに「・・・そうだよ」とまた表情を堅めた



「・・・じゃあさ、もう今日は店閉めるから奥に座って待ってな」


そしてすぐに自動ドアにCLOSEの札を下げに行った

匠は無言で奥に進み、椅子に腰掛けた



柚希は札を下げて、そのCLOSEの文字を見つめながら、ため息のような深呼吸をした

さっき、静かだと思っていた心臓がここにきてドキドキと鳴り出した


匠に言いたいことが有りすぎる


伝えたいことが有りすぎる


どこからどう話したらいいのだろう


匠は取り乱さずに、全てを聞いてくれるだろうか、、、、


要は


そう


俺が要は言いたいことは、、、、



たったひとつなのに



それを一言いうだけじゃ


匠に俺の”真剣”さは伝わらないと思うから・・・


匠の”真剣”さに応えなきゃいけないと思うから


柚希は観念したように、またため息に似た深呼吸をして、匠の元へ足を運んだ